約 773,965 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5813.html
涼宮ハルヒの天啓 プロローグ 涼宮ハルヒの天啓 前編1 涼宮ハルヒの天啓 前編2 涼宮ハルヒの天啓 前編3 涼宮ハルヒの天啓 前編4 涼宮ハルヒの天啓 中編1 涼宮ハルヒの天啓 中編2 涼宮ハルヒの天啓 中編3 涼宮ハルヒの天啓 中編4 涼宮ハルヒの天啓 後編1 涼宮ハルヒの天啓 後編2 涼宮ハルヒの天啓 後編3 涼宮ハルヒの天啓 後編4 涼宮ハルヒの天啓 エピローグ1 涼宮ハルヒの天啓 エピローグ2 涼宮ハルヒの天啓 エピローグ3 涼宮ハルヒの天啓 エピローグ4(終) 涼宮ハルヒの天啓 番外編1 涼宮ハルヒの天啓 番外編2
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5077.html
電気を付けたら部屋が明るくなりました、みたいないつも通りの放課後。俺はいつも通り占領もとい借りられた文芸室に足を運んだ。にしても太陽もたまには休めばいいのにどうしてここ最近晴天続きなんだ。 真夏の太陽を恨みながらドアを開けると、そこにはチューリップの花のように可憐なメイドがのんびりお茶を沸かしてい・・・なかった。 ただ部室の真ん中で怯えた朝比奈さんが団長様に気圧されていた。 ハルヒ「だから答えてちょうだい!どうやって瞬間的に私の前に姿を現せたのよ!?」 みくる「あうあうあうあうあう」 ハルヒはなんで怒っているんだ?いや、というより爆発寸前の太陽ような笑顔だな。それに「不思議を見つけた」みたいな楽しさを感じる・・・まさか。 少し会話(というより恐喝)を思い出そう。朝比奈さんが突然姿を現した、だと。しかもハルヒの目の前で。 俺が頭痛を感じていると古泉が営業スマイルのまま近寄ってきた。 古泉「事態は深刻です」 なら深刻そうな顔をしろ、仮面か? 古泉「これは失礼。しかし涼宮さんの前ではこの顔でなくてはなりません」 そういやそうだったな。ある程度の事情は察したが状況を詳しく説明してくれ。 古泉「僕にもよくわかりません。僕がここに来たころにはすでにああいう感じでした。」 そうかい。とりあえず止めるためにハルヒのところへ行った。 キョン「ハルヒ、何があったか知らんが少し落ち着け」 ハルヒ「あんたは黙ってて!みくるちゃん、教えなさい!」 みくる「・・・」 まあ予想はしていたが相手にされなかったわけだ。馬の耳に念仏とはこのために作られた言葉なんだと感心した。 古泉「まあこんな感じです。僕が止めても無駄でした。」 無意味に近づいてきた役に立たない超能力者を無視し、部室のすみにいる無口な宇宙人の所へ行った。 長門は椅子に座ったまま、相変わらず俺が一生読まなそうなぶ厚い本を読んでいた。俺が話しかけようとした時長門が顔を上げてこちらを見た。 長門「対処法が見つからない。」 実は俺の耳に耳せんを付けていたため聞き間違えました、というわけはなくそのつぶやきをはっきりと聞いた。 長門「現在の涼宮ハルヒの力が今までより強まっている。おそらくとても興味をそそがれる不思議を発見したから。」 ハルヒの声がうるさくて聞き取りづらかったがこんなところか。 キョン「でなんで対処法がないんだ?眠らせて記憶を消せば」 と言いかけて当たり前のように非現実的な事を話す自分に落胆した。 長門「今彼女は朝比奈みくるの不思議について知りたがっている。それを邪魔する事象を物理的にも精神的にも排除する。」 ということは今のあいつにはとんでも能力が効かないということか? 長門「そう」 ん?じゃあなんで朝比奈さんはすぐに暴露しないんだ。その「排除」は「朝比奈さんの暴露への抵抗」には適用されないのか、と珍しく難しいことを思い付いた。 長門「朝比奈みくるは彼女の信頼下にある。ゆえに傷つけるような行動をしたくないのだと思われる。」 暴れん坊将軍も逃げ出すようなこの光景を見てよく言えるな、とは口には出せない。 おや?見つめつづければ吸い込まれそうな長門の眼に、わずかだが懇願の光が見える。まさかな。 とそこへ古泉がまた近寄ってきた。顔が近いぞ離れろ。 古泉「これは失礼。このまま放っておくと未来人について明らかになるのは間違いないでしょう。」 キョン「一応聞いておくが、ハルヒが秘密を知るとどうなるんだ?」 古泉「自覚のない神が覚醒します。」 キョン「わけわからん。」 AAでも張りたいぐらいだ。30文字以内で答えよ。 長門「AAとは何か知らないが、端的にいえば力の暴走。彼女の中の常識が塗り替えられ、世界が彼女の思うがままになる。」 さすが長門、どこぞのイケメンと違い頼りになる。 しかしそれは厄介だな。そんなことができれば本当に世界がSOS団になってしまう。 長門「あなたの心も操作される。」 キョン「まじめに対策しないとまずいことだな。」 さてとあの闘牛をどうにかしないと。いやフクラミのではないぞ。 長門「そうなれば私とあなたが結ばれない。」ボソ 長門が小さい声でなにかをつぶやいた。もう一度確認したら、なんでもない、と返され読書に戻ってしまった。 まあさほど重要なことではなさそうだから、今は事態の鎮静化をしよう。 ふとハルヒ達の方に目をやると みくる「キャアアア!」 キョン「うおおぅ!」 急に朝比奈さんが俺に抱き着いてきた。とうとう愛の告白を受けてしまったか、と妄想を一瞬だけ広げた。一瞬だぞ。 現実に戻ると朝比奈さんが眼に涙をためて、俺に助けを求めてきたことを察する。とそこへ宇宙人からも危惧される人物が作曲中のベートーベンみたいな顔で近寄ってきた。朝比奈さんはあわてて俺の後ろへ移動して震えていた。うーんかわいらしい。 ハルヒ「キョン!そこをどきなさい!」 キョン「絶対断る」 ハルヒ「じゃあ横に移動しなさい!」 ここでからかってみることにした。いや動かないよりマシだろ。 キョン「わかった。」 ハルヒ「わかればよろしい。」 キョン「ほらよ。」 俺は体の向きを変えずに長門の方に移動した。すると朝比奈さんが一緒に移動した。 ハルヒ「み~く~る~ちゃ~ん!」 そして今度はいらいらした顔でどなった。その後も俺を巻き込んで大声を浴びせ続けた。 みくる「キョンくん」 小さな声が後ろから聞こえた。なんですか朝比奈さん。礼なら後でしてください。 みくる「それもありますけど、違います、テヘ。」 と舌をだしてウインクした。効果は抜群だー! とそこにトビラを開ける音がした。 この部屋内には団員が揃っているはずだ。鶴屋さんかな、しかしそれはそれで困るが。 キイイ そこに見えたのは朝比奈さんである。 俺と目があった直後朝比奈さんは弥生人が生きた恐竜に出会ったみたいな顔をしたまま扉を閉めた。ってなんで朝比奈さんが二人いる? みくる「あの時の私だ」 ん?ということはあなたは未来の朝比奈さん? みくる「正確にはえ~と3日後です。なぜここに来るように言われたかわ知らないんです。」 ではせめてこの後起こることはわかりますよね?ハルヒに生返事をしながら、震える小猫の答えを待った。 みくる「私は掃除当番での仕事で遅れて部室に来たんです。で部室に行く途中で鶴屋さんに会いました。」 あながち俺の予想は外れてなかったんだなぐへぇ。 ハルヒ「キョン!私が大人しい内にどきなさい!」 襟首を引っ張っといてよく言えるな。あっ朝比奈さん、俺の服を引っ張るのは嬉しいですが服が伸びてしまいますよ。 なにやら外が暗くなってきた。あれ天気予報じゃ晴天白日のはずだが。 みくる「あっすいません。で私と鶴屋さんで部室に行ったんです。で最初に私が入ろうとしてすぐに気づいたんです。」 襟首にかかる力がふいに消えたからようやく応答できる。 キョン「朝比奈さんがもう一人いることですね。」 みくる「そうです。で私が二人で図書室に行くよう頼んだんです。鶴屋さんは突然のお願いを承諾してくれました。」 ふと止められる気のない目覚まし時計のようなハルヒの声のベクトルが別のほうに向いてることに気づいた。 ハルヒ「今の会話にあった『キカン』て何よ!怪しいわね、電話の内容的に『機関』て書くんでしょ!教えなさい古泉くん!さもないと」 なんか部室のトビラの前で副団長の権利が云々と話を続けているが、それ以前になぜ古泉が新たな犠牲者に?その解答はすぐ隣の椅子から聞こえた。 長門「古泉一樹はおとりになっている。その間に朝比奈みくるから情報を聞き入れて。」 なるほどな、二人ともありがとよ。では朝比奈さん続けてください。 みくる「えーと図書室に着いた頃に黒い雲が雨を降らしました。夕立みたいな感じです。」 言い終わらぬ内に雨が降ってきた。たしかに夕立だな。 だが俺は言葉に表せられない不安がよぎる。この風景はいつぞやの冬の遭難と似ている。 ふと俺は長門を見た。長門は外の雨、いや雲を見上げている。その眼に僅かな不安を感じたのは多分俺だけだ。 みくる「キョンくん。キョンくん!聞いてますか!?」 キョン「すいません、ぼーっとしてました。」 みくる「もう。しばらく図書室で私たちは勉強してました。でも勉強中に未来から指令がきて、すぐに私は鶴屋さんを連れて部室に戻りました。」 朝比奈さんがぷっくりと頬を膨らませている。急所に当たったー!効果は抜群だー! ショックで廃人になりかけた俺に長門が手を引いてきた。両手に花だぜ。 長門「情報統合思念体にアクセスできない。」 キョン「なんだと。」 長門は冗談を言わない奴だ。とすればまさか今の状況は。 長門「冬の遭難時と似ている。私や涼宮ハルヒ、朝比奈みくるは能力を使用できない。」 さっきの予感はこれか。しかも学校でかよ。下手すりゃ一般人に被害が出るじゃねえか。 俺が打開策を考えようとしたところで後ろから猪が襲ってきた。 ハルヒ「なーにみくるちゃんや有希を誘惑してんのよバカキョン!離れなさい!」 いきなり横に突き飛ばすな。ベクトルを操作する力の開発なんて受けてない俺は倒されるがままに朝比奈さんの体に俯せで倒れた。 いてて大丈夫ですか朝比奈さん。て何顔を赤くしてるんです?俺は倒れる直前に手を床の方に突き出して覆いかぶさらないようにしましたよ?ん、なんで床がこんなに柔らかいんだ?・・・て キョン「柔らかい!?ゲフッ!」 あれーおれいまはらをけられたきがするぞ。しかもあさひなさんに。 ハルヒ「いい加減にしなさい!」 キョン「事故だ!過失だ!冤罪だ!」 ハルヒ「過失でも立派な犯罪じゃない!」 それもそうだ。とりあえずハルヒ裁判官に無罪を説得するために腰を上げると そこは部室じゃなかった。山の頂上付近の石をご想像してもらえるとありがたい。妙にゴツイ石や岩が辺りに広がっている。CGではない、その証拠に石を持ち上げてみたが重い。 一瞬で風景が変わっている。WHY? まあ唯一の救いは団員が全員すぐ近くにいることだ。朝比奈さんは倒れたまま、てか気絶してないか? にしてもここはどこだ?いつぞやのかまどうまの時と似ている気がするが。 長門「そう」 いつも通りの長門の反応にほっとした時、ガンッと言う音がすぐ後ろの方で聞こえた。俺は地面から物理法則を無視した物体が湧いてきたか、と考えながら振り返ると そこに赤い装飾をまとった大きめの石を両手で持っている古泉がいた。そしてそのすぐ下の床に倒れているハルヒ。 キョン「古泉!!」 俺は我を忘れて古泉の胸倉を掴み押し倒した。馬乗りになり、奴の顔を殴り飛ばそうとしたところで誰かに腕をつかまれた。顔を上げるとそこには長門がいた。 長門「彼の行動は正しい。」 キョン「友達を石で殴ることが正しいのかよ!」 長門「聞いて。」 長門の眼にほんのわずかだが水の膜ができている。そんな目をしないでくれ。俺は長門の言うことを聞くことにした。 長門「まず涼宮ハルヒに超現象を知覚されてはいけない。これは彼女が認識し興味を持たれてはいけないことを示す。」 つまりこの空間を記憶に残される前に気を失わせる必要があったんだな。 長門「私は古泉一樹に涼宮ハルヒを殴り気絶させるよう指示した。古泉一樹は最初拒絶したが、私の考えを理解したと思われる。指示通りに動いた。」 そうなのか。だが同時に俺は聞かなければならないことができた。 長門「私という個体は、あなたに彼を恨んでほしくないと願う。」 承知した。だがな長門 キョン「石で殴るというのは理解できん。俺たちは部員で友達だ。それに他の二人はともかく長門は人間にはできないことをするのは簡単だろ。」 なんで宇宙的マジックで傷つけずに気を失わせなかった、と言いかけて俺は思い出した。長門は言っていた、冬の遭難の時と似ていると。 長門「私や涼宮ハルヒの能力は今失われている。彼女をおとなしくするには絶好の機会だった。だが同時に穏便な方法で処理できなかった。」 事情は察した。だがこれだけは確認させてくれ。おまえはハルヒを傷つけるのになにも感じなかったか? 俺は立ち上がって長門の顔を凝視した。長門は俺の眼を10秒見つめた後ハルヒの方を向き、電波話以外では滅多に動かない口でたった6文字をつぶやいた。 「ごめんなさい」 俺は長門の両肩に手を置いた。俺の中を安堵と喜びが走り回った。なぜか?長門が人間らしい感情を少しずつだが着実に持ち始めていることに決まっているじゃないか。 長門の顔を見た。若干驚きの顔をしていたが嫌そうな顔をしていなかった。 みくる「ふぁぁ。皆さんおはようございます。」 俺は瞬間的に長門から離れた、いやまた何か誤解を受けるのは嫌だからな。やあ朝比奈さんおはようございます。 みくる「あわわわわ!てなんですか、ここどこですか~!?」 ブーン ずいぶん懐かしいセリフを聞いたが、今はこの状況を打破する方法を考えなければならない。 ブーン 古泉「ようやく落ち着いてもらえたようですね。押し倒された時別の意味で興奮しましたがそれはともかく、いやいやすいません。」 キョン「おまえに謝られてもちっともさっぱり全然お世辞にしか聞こえない、不思議!」 古泉「今のは聞こえなかったことにしておきましょう。とりあえず状況を整理しましょう」 みくる「ひゃあ!涼宮さんが倒れてる!キョンくんキョンく~ん!」 古泉「ここでは異能力を使えない。この空間の創造主は少なくとも涼宮さんではない。なぜなら彼女の意志で作られたのなら、気絶前と気絶後で何かしらの変化が」 みくる「キョンくん!古泉くん!長門さん!」 俺たちは見事にスルースキルを発動しつつ、古泉の話を聞いていた。 ブーン さっきから遠くで聞こえる虫の音がしつこいなあ。 古泉「あなたが僕にうっとおしそうな顔をするのは珍しいですね。どうしたんですか?」 いや珍しいことではないだろ。だが今は違う。 キョン「さっきから虫の音がうるさいんだよ。殺虫剤カモーン。」 古泉「それは変ですね。この空間には人間以外入れないはずですが。」 みくる「なんで皆さん無視するんですか~!私の言うこと聞かないとミンチにしてやりますよ~」 古泉「長門さんは虫の音が聞こえましたか?」 長門「聞こえない。だが向こうに」 みくる「私泣きますよー!」 古泉「聞こえませんか、僕もです。」 キョン「待て長門。今なんて言った?」 長門「聞こえない、と言った。」 違う、そのあとだ。よく聞こえなかった。 長門「向こうに何かいる。」 俺たちは長門の見ている方向を凝視した。そこには 「ブーンブーンブーン」 擬音語を言葉にしたような音を出す、どこかで見た気がするAAが空を飛んでいた。 あれはなんだ、敵か? 古泉「どうもそのようですね。そして同時に倒さなければならないでしょう。」 キョン「だがどうやって倒すんだ?」 ブーンという声が突然大きくなってくるとともにそいつも大きくなってきた。つまり キョン「接近してきてる。みんな逃げろ!」 俺たちはあてもなく走った、俺は倒れているハルヒをおんぶしながら。意識のない人間は重いと聞いたことがあるが、ハルヒは軽かった。 AA「時間の果てまでブーン!」 よくわからないことを叫んだかと思ったら、奴はいつのまにか俺たちの頭上10mにいた。 奴の大きさはこの距離で一般男性の平均身長ぐらいはありそうだ。 長門「あれは生物ではない。」 なぜそんなことがわかる? 長門「今までの経験と言語化できない決定」 無理矢理訳すと『女の勘』ということか。だが生物でないならなんだ。 長門「わからない」 古泉「僕の方にも質問してくださいよ、のけものみたいじゃないですか。」 空気と化した朝比奈さんよりはマシだろうよ。セリフがあるのとセリフすらないのはかなり違うぞ。 古泉「思うに長門さん、あれはゲームの敵と同じようなものではないでしょうか。あれに殺意を感じません。」 キョン「なるほどな。だとするとプログラムに従って動いてるんだな。」 となるとプログラマーがいることになる。だが疑問がある。 キョン「なんでこんなことをするんだ?危害を加えたいならさっさと攻撃すればいいのに。」 古泉「僕にもわかりません。」 言い忘れたが、話している間も俺たちは常に奴の動きを見ている。て誰に言ってんだ俺。 ん?なんかさっきよりも奴が近づいてないか? 古泉「このまま待機してても拉致があきません。少し刺激を与えましょう。」 と言いながら古泉は大きめの石を拾い奴に石を投げ付けたが、奴はその石から逃げるように体を曲げた。そして落下してくる石は俺の眼の前でだんだん大きく キョン「あぶね!古泉気をつけろ!」 長門「彼に石をあてないでもらいたい。」 古泉「すいません二人とも。」 古泉は観音様にお願いするかのように謝罪した。あとで缶コーヒーをおごれ。 古泉「いやです。ですがわかったことがあります。あれは石をあてられたくないようです。みんなで石をあてましょう。」 ほういい度胸してんな、あとで覚えてろ。とりあえず古泉の提案に生返事して、奴に石を当てることにした。 ――あれからおよそ30分―― 結論からいうと、全然当たらない。 長門「あれとの距離はおよそ8m。当たらない距離ではない。」 古泉「ですが当たりません。困ったものです。」 キョン「どっか高台はないのか」 古泉「辺りを見ればわかりますがそんなところはありません。」 おまえはいつでもスマイルだな、奴もそうだが。 古泉「一度あれと話してみたいです。」 長門「あれは生物ではないから有機生命体の言語を理解できるか困難。」 長門、冗談と本気を区別できるようになったら人間として完璧だから頑張れ。 長門「そう。」 俺達は休憩することにした。だがハルヒでないほうの神は俺たちをいじめたいらしい。俺の顔の右5cmを何かが火花を散らしながら正面から通過した。その直後にパーンなんて音がした。まるで花火のような キョン「朝比奈さん!なにやってんですか!?」 気づけば正面約十mの位置で朝比奈さんは鬼のような形相をしていた。しかもロケット花火をセットしていた、オレタチニムケテ。 みくる「ひどいですみんな。私が見えてないかのようにふるまって。グスッ」 キョン「朝比奈さん!別に無視してたわけではないんです!」 古泉「そうですよ。僕たちは空気を見てるんですから。」 キョン「バカヤロウ!んなこと言ったら」 みくる「私なんてどーせ役立たずで雑用係のロリロリメイドでしかないんだ、うわーん!」 朝比奈さんは泣きながら俺たちに向けてロケット花火を打ち続けた。ていうかどこに花火を持ってたんだ?それ以前になぜもっている?。 俺たちはとにかく逃げ回った。朝比奈さんはようしゃなく打ち続けている。 とにかく花火をなんとかしなくては、と考えた時ふと打倒朝比奈さん策を思い付いた。それは石を花火に投げつけ、ひるんだところで朝比奈さんを止める。完璧だろ。 俺は足元に落ちてる石を発射前の花火に向かって投げた。石は花火に当たると、上の方をむいて転んだ。朝比奈さんが方向を直そうと花火に近づいたとき、花火は無意味な方向へ発射された。 古泉「よくやってくれましたキョンくん。」 ん?なんのことだ?今から俺は朝比奈さんを止めに入るのだが。 古泉「えっ、まさか偶然だとは思いませんでした。感服です。」 なんだ、と思い上空を見た、いや正確には地面から8m上の空間を見た。 例の奴が赤く点滅していた。その後粉々に砕けて消えた。そういうことか、俺SUGEEEEEE! 長門「空間が壊れ始めている。この空間から脱出する。」 キョン「力は戻ったのか?」 長門は無言でうなずいた、口の両端をナノ単位で上に向けながら。 長門「今回はあなたのおかげ。私の見込んだ通りの人。」 キョン「俺はそんなすごい人じゃないぞ」 長門「・・・・大好き」 キョン「えっ・・・・」 古泉「とりあえず脱出しましょう。長門さんお願いします。」 長門「・・・KY。わかった。」 なんだこのとてつもなく不安な感じは。なにか重要な問題を忘れたような。まあ気のせいだろ。 長門「△*■Μэ⑲㏄∑¥∴」 キョン「なあ古泉。さっきから聞こえる爆音はなんだ?」 古泉「この付近で火山でも噴火してるのでしょう。」 長門「∂◎#@キョン・古泉・ハルヒ・長門・朝比奈」 朝比奈さん?あっ キョン「長門!ストップ!」 遅かった。俺たちは部室に戻っていた。ハルヒ・長門・古泉・俺は部室の机に隠れるように帰還、朝比奈さんは・・・ 俺は朝比奈さんを止めようとしたがもう遅い。朝比奈さんがセットした花火はいきよいよく放たれ、部室の窓を破っていった。 ――その後――――― ハルヒ「キョン、今日あたし何してた?」 あの後長門が朝比奈さんを眠らせ、情報操作を行った。 ガラスは割れなかったことにし、ハルヒは部室の机でうたた寝していたことにした。 ハルヒの傷も治した。未来の朝比奈さんは時間転移でどこかに行った。なにしに来たんだろう。 部室から出た直後に、今回の事をほとんど知らない朝比奈さんに会った。で今団員全員で帰路についてるわけだ。夕焼けがきれいだな。 キョン「椅子にもたれてグースカ寝てたじゃないか」 ハルヒ「あーもー一生の不覚よ!キョン、今日は夜も部活するわよ!」 冗談じゃない。俺にも休息をだな。 古泉「いいんじゃないですか?このまま放置したら閉鎖空間が発生してしまいます。」 キョン「だまれイエスマン。今日は疲れたんだ。」 ハルヒ「なんで疲れてるのか知らないけどわかったわよ。ところでさ。」 ん、珍しく声を小さくしてどうした?愛の告白なら喜んで受け入れるぞ。 ハルヒ「バカキョン!そんなんじゃないわ!私の頭に傷はない?」 キョン「別にないが。」 顔が真っ赤だぞ、とは言わなかった。 ハルヒ「・・・・・・そうよね、夢よね。」ボソッ キョン「なんか言ったか?」 ハルヒ「別に。」 さてお別れの交差点に入ったので俺たちは解散した。今日は朝比奈さんの黒い部分が見えたからよし。だがそれよりももっと印象に残ったのが 「・・・・大好き」 自分の顔が熱をおびるのがよくわかった。 俺は家に着くとまず顔を洗った。俺が夕飯を待ちわびるべく部屋に戻ったところで、妹が電話の子機を持って追いかけてきた。 キョン「誰からだ?」 妹「長門さーん」 キョン「・・・そうか」 妹「キョンくん顔赤いよーどうしたのー」 俺は妹を部屋の外へ放り投げたのち子機を耳にあてた。 キョン「長門か?」 長門「・・・そう。今から私の家へ来てもらいたい。あなたに今回の事件で聞いてもらいたいことがある。では。」 電話が切れた。さて健全な男子学生ならどう反応したらいいのかね。告白(?)された後に家に呼びだされるという状況に。 ―――数十分後――― 俺は長門の家の前に着いた。恐る恐るインターホンに指を乗せた。家に呼び出されたのはあくまであの件について聞くためだ、俺は自分にそう言い聞かせながらインターホンを押した。 「おーともなーいせかーいにーまーいお」 呼び鈴なのだろう、歌が途切れると長門の声が 「やあこんばんは。2時間ぶりですかね。」 なんで古泉がいるんだ。俺は安堵と残念感を同時に味わいつつ キョン「そう」 と無口な宇宙人のまね事で答えた。 古泉「おそらく僕とあなたの用件は同じはずです。鍵は空いてます、入ってください。」 キョン「なんで開けっ放しなんだよ。」 インターホンが沈黙したのだろう、返答はなかった。 俺はとりあえず中に入って長門達の下へ歩いた。 長門は俺を見ると顔を俯かせた。 長門「座った。」 古泉「長門さん、『座って』ですよ。」 長門「間違えただけ。」 長門は緊張してるのだろうか?珍しい。 俺達3人がONLY ONEインザハウスな机を挟んで腰を下ろすと長門が口を開いた。 長門「今から話すことは情報統合思念体の調査結果である。情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない、実際コミュニケーションとは」 キョン「あー長門。知識豊富なのはよくわかってるから今回の事件について教えてくれ。」 長門「そう。キョンが言うなら。」 えっ?長門が俺のことをあだ名で読んだだと。 古泉「顔が赤いですよ?とうとう僕のあなたへの愛に気づいてもらえましたか。」 キョン「断じてそれはないしそっちの趣味も一切さっぱりからっきしないぞ。」 長門「二人とも聞いて。」 長門は全て話した。まずあの空間と物体の作成者は、冬の遭難時の犯人と同じだそうだ。 動機はまさにヒトラーが民主主義を唱えるかのようなものだった。 長門「彼らの目的はない。動機は『退屈』だったから。ただ彼らの言いたいことを我々は完全に解析できていないからなんともいえない。」 前回はハローの代わりに吹雪を降らしてきた。今度は退屈しのぎに数人を異空間射撃ゲームかよ。何考えてんだかさっぱりわからん。 そして朝比奈さんがなぜ未来から来たのか。どうも未来の一組織が情報統合思念体の急進派と手を組んでいたらしい。 長門「涼宮ハルヒにあえて未来人を認識させることで、どのような変化が表れるかを調べていた。朝比奈みくるはその組織に騙されていた。ちなみに今は急進派及びその組織は厳正な処分を下されている。」 朝比奈さんが図書室でされた指令は、急進派が捕まった後正規の組織が指示したもののようだ。 ん?だが疑問が残る。その疑問を代弁するかのように超能力者は言った。 古泉「未来人や急進派はあの頭の愉快な思念体の行動を知らなかったのでしょうか?彼らの目的は彼女の変化の観察ですよね?邪魔が入るとわかってたら計画自体に意味がありません。」 長門「それについては情報統合思念体も困惑している。もしかしたら彼らは未来人にすら認知されない行動力を持っているのかもしれない。」 奴らがその思念体と手を組んで空間に閉じ込められた状況を観察した、という可能性はないのか? 長門「ありえない。あれと会話することも困難であるのに、計画を立てることは不可能。」 キョン「あまりに馬鹿にされる思念体に全俺が泣いた。」 長門「あなたは一人しか・・・ジョーク?」 キョン「よく気づいた。」 ――――その後―――― 古泉「では用も済みました。僕はこれで失礼します。」 古泉は帰った。長門の告白は気になるが俺も帰ることに 長門「・・・・」 帰ろうした俺の腕の裾に小さな力がかかった。振り向くとそこにはハムスターをつまみあげるように裾をつかむ長門が俺の目をじっと見つめていた。そして長門の顔が少し赤い。 俺たちは時間の経つのを忘れたかのように見つめ合った。顔に熱を感じる。ああ今なら認めるぜ、今まで自分の心から逃げてきたからな。 キョン「・・長門。」 長門「・・・有希と呼んで欲しい」 キョン「・・・有・・希」 長門「・・・キョン」 俺はいつのまにか長門を抱きしめていた。長門も俺の腰に腕をまいていた。 おっ長門、いや有希の胸から鼓動をはっきり感じた。こいつは宇宙人なんかじゃない。それに俺は言った、冗談と本気を区別できたら完璧だと。 「おまえは人間と変わらない、いや人間なんだ。」 「・・・異能力をもってるけど、いいの?」 「この世界では当たり前なんだ。気にするな。」 「・・・そう。」 「そうだ。おまえは人間で、俺の『彼女』になるんだ。」 「・・・・なら二つだけ約束して欲しい。」 「なんだ?俺にできることならいいぞ。」 「あなたにしかできない。まず私のことを呼ぶ時『おまえ』ではなく『有希』と呼んで。」 「ああ。」 「もうひとつは・・・私の事を支えて欲しい、いつまでも。」 「もちろんだ!じゃあ俺からも一つ。いつまでも俺を支えてくれ、有希。」 「・・もちろん。」 「有希。大好きだ。」 俺たちは口づけを交わした。 あの後俺はすぐに家に帰った。お互いに何を話せばいいかわからなくなったからだ。今となっては名残惜しい。 ―――次の日―――― 放課後俺たち団員は1+1=2というぐらい当たり前のように部室に集まった。 俺は古泉とスピードをし、朝比奈さんはなぜかナースになっていた。ハルヒいわく、風通しがいいのだそうだ。実際そうらしいので特に異論はなかった。無口な少女はいつものぶ厚い本ではなく、俺でも読めるレベルの恋愛小説を読んでいた。ハルヒ?あいつはいつもの通りだ。 ハルヒ「なんか昨日から変なことを考えるのよね。」 今日ハルヒの様子はずっと変だった。何か考え事をしていたのだ。なんだ、今度は危ない水着を朝比奈さんに着せるつもりか?「風通しがいいのよ」とか言って。 ハルヒ「させたいけど違うわよ!なんか古泉くんに石で殴られた、てのを考えちゃうのよ。まさかそんなことあるわけないとはわかってるんだけど。」 みくる「えっ・・・」 古泉「僕がそんな恐れ多いことをするわけないじゃぎゃッ!」 古泉よ、慌てすぎで舌噛むなんて入れ歯を装備したライオンより滑稽だぞ。 ハルヒ「てなわけで古泉くん。悪いんだけど今日だけ副団長の活動停止を行うわ。帰って。明日からはいつも通りのあたしになるから。」 古泉「・・・わかりました。ではみなさんまた明日お会いしましょう。」 そういやあいつに落とし前をつけるのを忘れていた。明日にしよう。 さて古泉が帰ったから朝比奈さんでも誘ってトランプでも ハルヒ「ちょうどいいわ、キョン!ここらへんではっきりしてもらいましょうか!」 キョン「なにをだ」 ハルヒ「なにって・・その・・・あんたが誰を好きなのかを・・」 そんなことか。見れば朝比奈さんや読者中の少女も俺を見ている。ハルヒには悪いが速答させてもらう。 「俺は有希の彼氏だ。」 ―――完―――
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2966.html
涼宮ハルヒの悲調 ●第一部 何をしていたか思い出すのに、しばらく時間を要した。 やがて目を開けるのを忘れていたことに気づく。 カーテン越しの世界から、濁った光が溶け出している。 そういえばずっと雨だなあ、と口に出すと、ベッドで寝息を立てる朝比奈さんが何か呟いた。 ――何をしているんだろう。思い出したはずなのに、また忘れている。 SOS団が一週間前に解散した。理由は一つ。ハルヒが死んだ、それだけだ。 この事態を飲み込むのは、酒に弱い俺が飲み慣れない日本酒をゲロするよりも早かったが、それで爽快、というわけにはいかなかった。 うすぼんやりとした哀しみはここの所続く雨みたいに降りしきる。 積もることはない。薄い涙の膜が脳みそを綺麗にコーティングしてるみたいだ。 うすぼんやりのままだ。たぶんずっと、おそらくだが。 死んだ次の日、俺たちは――旧・SOS団員は――部室に集まった。 あいつのつけていたコロンの匂いがした。あいつの座った椅子があった。あいつの描きかけの下手糞な絵が。あいつのバニー服が。 誰も何も言わなかった。風が吹いて、カーテンが揺れた。古泉が口を開いた。 「彼女が……涼宮さんが亡くなったことによる影響は……ありません。彼女は死ぬ直前、自らの能力を最大限に利用し――書き換えていたのです」 「……どういうことだ?」 「この世界がこのまま続く、ということですよ。あえて言うなら、僕は普通の人間に戻りました。朝比奈さんはこれからの未来を抹消されていて……いや、どう説明すべきでしょうか? つまり……」 「あたしは、未来人ではなくなった……ってことです。本部とも連絡は取れなくなってました」 「そういうことです。彼女の”本部”も、僕の”機関”も、いずれは自然消滅するでしょう」 結局そのお偉方が何をしていたのか、俺は知ることもできんわけか。それはいいが、じゃあ長門はどうなるんだ? まさか―― 「ええ、そのまさかです。彼女は人間になりました。ありえないことですが……創造主がそう望んだんですから」 改めてハルヒの恐ろしさに気づいた。古泉曰くの「神いわゆるゴッド」とはこういうやつなのだ。 強情で意地っ張りで負けず嫌い。ギリシャ神話に加えて欲しいぐらいだ。 しかし、そう望んだ……とは。 「彼女は……この世界が続くことを願ったのです」 「……」 血液がものすごく遅く流れているのがわかる。俺は力を失って、団長の椅子に座り込んだ。 ありがとよ、ハルヒ……? でもな、意味がねえ。お前の力とやらはまるっきり役立たずだ。 お前がいないんじゃさ。 翌日にSOS団は解散した。 誰も止める者もいなかったし、止めようとも思わなかった。 全校朝会などが開かれて、ハルヒの死は大変に痛ましい出来事だと力説する校長。泣く女子。 俺は曖昧に顔を歪めてみたりもした。それだけだった。 本当に悲しいと涙が出ないらしい。 いつか堰が切れる日が、怖くて仕方がない。 ある雨の日、朝比奈さんは俺を呼び出した。 「もう、あたし、キョン君と仲良くしてもいいみたいなの……だ、だから……」 「朝比奈さん……」 俺たちは急速に近づいた。全校生徒が羨む美女だ。俺は幸せ者だっただろう。 だが。いつだって、ハルヒの顔は脳裏にちらついていた。 彼女と薄暗い部屋でセックスに耽っていても、ハルヒは俺の心の片隅に、確実にいた。 盲目的に俺は彼女を欲した。呼び名も「朝比奈さん」から「みくる」に変わり、彼女も俺を名前で呼ぶ。 ただただ、お互いがお互いを求めていた。何度も何度も交わり、全てを忘れた。 ――そうか。忘れたかったのか。 気づいても俺は求め続けた。 俺は長門とも関係を持った。長門は朝比奈さんと違い奥手だったが、それでも一緒にいるだけで落ち着けた。 放課後、「文芸部」になった部室。オレンジが眩しい部屋の中でキスをした。長門の唇は震えていた。 ふと部屋の隅に置かれたダンボールが目に入る。「団長」と書かれた腕章。 それは長すぎる、短すぎる時間。俺は長門に意識を戻した。 忘れたフリをした、という嘘。 長門の、時折漏らす噛み殺したような喘ぎ声だけが耳に入っていたはずなのに……確かに聞いていた。 「バカキョン!」 「! ……?」 「……どうかした?」 「い、いや……何でもない」 俺は貪欲に長門を欲した。暗がりでも長門の肌は白く透き通っていた。 忘れたいだけ、という真実。動かない。 雨の音は絶え間なく鼓膜を揺らしている。それは紛れもない悲調。 俺は、やはりハルヒの影を忘れることはできない。 ハルヒとは何の関係もなかった。ただ一度キスを……それも夢の中で。 でも、それでも、俺は唇の感触を忘れられない。驚いた顔も。髪の匂いも。温もりも。 その全てが愛おしかった。告白するが、俺はあの一度きりのキスのとき、どうしようもなくハルヒが愛しかった。 ずっとこうしていたいと思ったし、世界がどうなろうと関係なかった。 ただ俺とハルヒがいた。 ●第二部 11月になった。ハルヒが死んでからもう5ヶ月だ。 死んですぐの時には、「なあに、すぐに忘れられるさ」と思っていた。でも違った。俺は未だにハルヒの影を引き摺って生きている。 2ヶ月ほど経って俺は学校になかなか行かなくなった。いや、学校だけじゃない。家にもいたくなくなった。朝比奈さんも長門も一人暮らしだし、俺が望めばいくらでも寝床を提供してくれたので、しまいには家にも帰らなくなった。 やがて、俺は学校を辞めた。俺だけじゃない。朝比奈さんも、長門も、連れ立ってやめてしまった。 俺が二人と関係を持っていることをお互いに知ったときも、怒ったり嘆いたりしなかった。俺と朝比奈さんと長門は同棲を始めた。 そしてひたすら求め合い、堕ちてゆくのみだった。朽ち果てた精神が音もなく崩れた。俺達は生きて死んでいるも同然だった。 忘れたフリをして生き延びた。時間だけ過ぎて俺達を照らした。 ――ハルヒ、俺を笑うか? 季節は、もうすぐ冬になる。 初めて雪が降った日だ。古泉から連絡があった。 「お久しぶりです。元気でしたか?」 「……ああ。お前も元気そうだな」 「ええ、おかげさまで」 「そうか……で?」 「はい?」 「何か用があるんだろ?」 「……ええ。実は、部室を整理していたら……MDを見つけました」 「MD……?」 「ええ。涼宮さんの残したものです」 胸の辺りがぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。眩暈がして、俺は座り込んだ。 そうか。あいつはいたんだ、確かに。他人の口からハルヒの名を聞くのは久々だった。 「大丈夫ですか?」 「……ああ。そのMDというのは」 「ええ、それが……あなたに宛てたメッセージです」 メッセージだと……? あいつが? 俺に? 何だって言うんだ……? 「何だっていうのかは知りません。僕も聞いていませんから。ただ、『キョンへ』と、そう書かれています」 「……」 俺は古泉に送ってもらうよう頼み、電話を切った。 その場に座り込んで、タバコを燻らしたけれど、落ち着くことはない。 ふとやわらかい感触が背中に重なった。 「どうしたの……?」 風呂上りの朝比奈さんが俺の首に抱きつく。嗅ぎ慣れた石鹸の香りがした。 彼女の吐息が耳にかかって、そうしてまた俺は眠たくなる。 「有希は……?」 「今買い物に行ってるわ……今日もカレーだって」 「俺は好きだな、あいつのカレー」 「ふふ、あたしも」 彼女が俺のうなじに舌を這わせているときも、ハルヒのMDの件は俺の脳みそにこびりついて取れやしない。 思い出すと涙が出そうで、俺は朝比奈さんの胸に顔をうずめた。 そのMDはすぐに届いた。 今は二人とも出かけている。俺一人だ。今、聞くしかない。 「このMDは、涼宮さんが病床に伏せている時に録音されたものです。最後に学校に来たときに部室に隠していかれたものと思われます」 古泉はそう言った。あいつは病気の体をおして部室に来て、そしてこのMDを―― 場面が想像できて、俺は気分が重くなった。俺のためにハルヒが。 ふと、「ああ、悲しいんだな」と気づいた。 俺はMDデッキの再生ボタンに手をかけた。 ゆっくりと、当時には掠れてしまっていたハルヒの、それでもどこか優しい、あの声が流れ出した。 ●第三部 ハルヒの声が止み、MDプレイヤーは耳につく機械的な音で止まった。 俺は涙をぬぐうことをすっかり忘れていて、頬がうすら涼しくも感じるほどだった。 灰色に腫れてむくんだ空から数多の雨粒が落ち、窓に当たって騒いでいる。 その音だけが充満して息苦しい部屋で、俺はさめざめと泣いた。 次の日も雨だったが、かまわず俺はハルヒの墓参りに向かった。 なかなか大きい墓だった。墓標には「涼宮ハルヒ」の文字が燦然と輝いてやがる。 立派なもんだ。金持ちだったからな、あいつは。 俺はお前に渡すものがある。笑わずに受け取ってくれ。頼む。 俺は、昨夜一晩かけて捻り出した思いを綴った手紙を墓前に添え、その場を後にした。 生活は変わっていった。俺も朝比奈さんも長門もいつしか勉強を始め、三人そろって同じ大学に入学した。 やはりみんな、このままの生活を続けるのはいけないと感じていたのだろう。 大学生活も俺たちは存分に楽しんだ。が、恋愛だけはしなかった。 卒業後、それぞれが別の仕事についたが、帰る家は同じだ。いつも長門の作る料理の匂いは俺たちを待っている。 俺は小説家になり、朝比奈さんはモデルになった。長門は専業主婦だ。 なかなかお似合いだろ? 朝比奈さんなんか写真集まで出して、タレント、女優もやってやがる。 俺はといえば小説家だ。何本か書店に並んでるぜ。新進気鋭の売れっ子だよ。 長門は料理の腕をめきめき上げて、家事全般をこなせるいい嫁になった。 だが、俺たちは俺たちの中ですごしていった。結婚するわけじゃない。俺たちはおそらく一生このままだと思う。 このままでいいと思った。そう願った。 せっかく願ってやってんだから、ハルヒ、お前俺たちの願いをかなえてくれ。お前なら簡単だろう? だからさ、頼んだぜ? なあ神様。 ●Per sempre 暗くもなく、明るくもない。 窓を隔てた灰色から漏れる光が、この部屋の唯一の光源だ。 俺はそっと瞼を閉じる。瞳に映る黒、黒、黒。 いや――そうか。瞳の裏には、いつだってその笑顔があった。 忘れたことはない。この50年のうちに起こった幾多の出来事、そのいつだって俺は目を瞑り、その笑顔を思い出していた。 忘れたことはない。共にすごした二人が先に逝ってしまったときも。 忘れたことはない。俺一人、明かりのない部屋の中で静かに聴く雨音……いつだってその笑顔は俺の中にいた。 MDデッキを持ち出す。お前も、よくがんばってくれた。再生ボタンに手をかけ、目を瞑る。 やがて声が流れ出し、俺は深い哀感に駆られるだけ―― 「キョン、聴いてるかしら? 聴いてなかったらぶん殴るわよ! ……聴いてるわね? あたしはたぶん……たぶんそのときには死んでると思うわ。ま、まあ、生きてたら物凄い恥ずかしいけどね! そのときは知らないフリをしてね? しなさいよ絶対! それからキョン以外の人が聴いてたら……今すぐ止めなさい! 団長命令よ! ……ごほん。ええと……そう……キョン。キョンには、伝えなきゃならないことがあるわ。 ううん……あたし……ね、キョンのことが……好きだった。たまらなく好きだったの。今更だけどさ。 あんたが一緒にSOS団を作ってくれたとき、あたしすごい嬉しかった。 まあ、強引にあんたを連れ込んだってのもあるけどね。そこは気にしなくていいわ。 あんたと過ごす一日一日が、あたしは……げほげほっ……ごほっ……ごめん。あたしは……ああもう、何をしゃべったらいいのかしらね? あたし……キョンと出会えて良かった。キョンだけじゃない、有希やみくるちゃんや古泉君とかと出会えて良かった。 でもね、キョン、あたしはやっぱりキョンが一番好きだった。気づいてた? ずっと好きだったの。どうしようもないくらいに。 でも……断られたらどうしようって……あたし、こう見えて臆病なんだ……あ、今笑ったでしょ! 笑うな! ……だから、今言うわ。キョン……愛してる。あ……ごめんね、こんな形で。あたし、メールとか電話で告白する人嫌いなんだけど、まあMDで告白する人はいないだろうから大目に見なさい! ……ごめんね、キョン……死にたくないよ……あたし、まだキョンと一緒にいたい。たくさん遊びたかったし、遊ばなくてもいいからずっとキョンと一緒にいたかった。 この際だから言うけど……あたし、前にキョンと校庭で、その……キスする夢を見たことがあるの。ば、馬鹿にしないでよね! ……嬉しかったんだから。 あの朝、キョンがあたしの髪型を『似合ってるぞ』って言ってくれた時、あたし泣きそうだった。嬉しくて仕方なかったの。 あたし……だめ……涙が止まらないよ……好き……キョン…… ……ぐす………………すん…………………… ……でもね、あたし、幸せ者だわ……キョンが好きなままで死ねる。 幸せ者のままで死ねるから、幸せ者だわ…………ごほっげほっ………… …………キョン、もうさよならだわ……キョン、あたしのこと忘れないでいてくれる? 10年経って20年経って、お爺さんになっても。ずっとあたしを覚えていてね……。 キョン、大好き。じゃあね……」 耳に障る機械音でMDは静かに、止まった。 さよなら。忘れない。
https://w.atwiki.jp/haruhioyaji/pages/264.html
ハルキョン家を探す その5から 「あたしたち、幽霊屋敷に住むわ。SOS団のみんなも一緒よ!」 いやハルヒ、『前回までのあらすじ』を強引に一言で言ってしまえば、確かにそういう風にもまとめられるかもしれないが、それだと誰も安心も納得もできないぞ。 俺は、例の不動産屋の店主との出会いのいきさつから、ついさっき訪れた古い洋館のだいたいの部屋数まで、差し障りのなさそうな部分をかいつまんで話したが、それでも主賓クラスのスピーチの長さになってしまった。ハルヒの親父さんが「ジー・ジェイ」とかなんとか言ってた気がするが。 頃は合格発表の晩、ところは涼宮オヤジの縁が深い、俺とハルヒも再開店1周年の際に訪れたことのある洋館風のレストラン、主催俺の家アンド涼宮家、協賛SOS団と愉快な仲間たちでもって開催された「ハルキョン超合格宿がパーティ」(誰だタイトル考えた奴?)は、ハルヒと俺にとって予想もしてない文字通りのサプライズ・パーティであった。 「店貸し切って、もし不合格だったら、どうしようと思ってたんだ?」 喉カラカラで演壇から降りてきた俺を出迎えたのは、メイド・コスチュームの世界一似合うアンジェリーナ朝比奈さんでも、本当に本職メイドではないんですか森さんでもなく、どこの黒執事かという出で立ちのニヤケスマイルの副団長であった。ついでに言うと古泉が俺に手渡したグラスには、シャンパンでも六甲ワインでもなく「ただの水」がなみなみと注がれていた。 「いえ、六甲の水だそうです。地元ですから」 「そんなことはどうだっていい」 「不合格……の場合ですか? ほとんど想定外のことですが、その時はその時で、残念パーティということにでもなったんでしょうか。ああ、一応、懺悔室なるものは、涼宮さんのお父様の意向で用意してありますが」 ……親父さん、あんたって人は。 「でも、万が一でも、そういうことにはならなかったでしょう」 「ハルヒが望んだ、ってのは無しだ。俺たちは見事に一浪したし、俺なんかは右手を折ったんだぞ」 しかし持論を翻さず、ハルヒの心理専門官を自認する古泉は落ち着き払った口調でこう言った。 「涼宮さんが、あなたが怪我をすることを望むとは考えられません」 「すると、こういうことか? あいつは俺と二人っきりで暮らすよりも、SOS団での共同生活を望んだ。そのために、俺たちの進学は1年間猶予され、その間に怪しげで居住スペースを十二分に備えた幽霊屋敷が登場したと?」 「まあまあ。SOS団で住むという話は、我々もさっきが初耳なんですよ。いろいろと考える必要はあるかもしれませんね」 世の中で最も絡むのに適さない相手、グレート・ザ・のれんに腕押しの腕章をすぐにでも贈呈したいこの男に、どうやら俺は絡んでいるらしい。多分、少々落ち込んでいる。そうとも、自覚はある。 「まあ、元気を出してください」 古泉、それダメ押し。「あなたは落ち込んでいる」と言外に断定しちまってるぞ。こういう時は、平凡な言葉ほど効くって本当だな。 「今回の企画の中心、涼宮さんのお母様が、あなたの家やSOS団に連絡され、説得に当たられたのですが、その間、誰も不合格なんて事態を微塵も考えなかったと思いますよ」 なんとでも言ってくれ。 「今回の結果は、決して幸福な偶然が運んで来たものではない。そう考えると、少しは誇らしく思えてきませんか?」 「こら、キョン!! あんた、今日の主役でしょ! すみっこで何ごちゃごちゃ話してるのよ!」 「姫がお呼びですよ、殿下。……できれば、披露宴もこんな風にやりたいものですね」 「誰と誰のだ?」 やったとしてもお前には司会もスピーチもさせんぞ。谷口、国木田と3人で「てんとう虫のサンバ」を歌わせてやる、しかもラップVer.でだ。 演題の上で飛び跳ねながら、本日最高の笑顔で叫んでいるもう一人の主役、ハルヒの方へ、俺はよろよろと歩いていった。 宴は、俺の片付かない気持ちとは裏腹に、大いに盛り上がった。 なかでも涼宮家の母・娘の出し物は、基本的には一般人の集まりであろうこうした宴では、もはや超反則クラスで「プロの方おことわり」の域に達していた。 いつだったか、俺が軽くリクエストしたせいで決まった、母娘二人による連弾:一台のピアノを母と娘の4つの手が演奏するやつは、最初は誰でも知ってそうなクラシックの曲からゆったりと始まったが、次第にアレンジはアップテンポになり、曲調と技巧が頂点に達したところで終わる、会場総立ちモノだった。 そういや、いつか練習しすぎで筋肉痛になったハルヒが言っていた。 「For piano four hands、連弾のことをこう言うの。ピアノはオーケストラに出せる一番低い音から一番高い音まででるけれど、所詮2つの手、10本の指じゃ限界があるわ。でもね、4つの息の合った手があれば、オーケストラにだって負けないのよ!」 続いてハルヒがピアノを弾き、ハルヒ母が、水のように透き通った、どこか現実的でないほど美しい声で、アリア3曲を歌った。以下は長門による簡潔な解説である。 「すべてヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの作曲によるもの。1曲目ケッヘル番号51(46a)歌劇『みてくれのばか娘』からアリア『あたし恋をしてるの』、2曲目ケッヘル番号217 ガルッビ:歌劇『ドリーナの結婚』への挿入曲 アリア『あなたの心は今は私に』、3曲目ケッヘル番号440(383h)アリア『あなたに望みを託しますわ,ああ,愛する夫よ』」 一転して会場は水を打ったように静かになり、静寂がゆっくりと盛大な拍手に変わっていった。 二人は一礼して、ハルヒの母さんは親父さんのいる席へ戻り、ハルヒは俺の隣にやってきた。 「すごいな。ぶっつけとは思えん」 「ずっと練習はしてたもの。今日やるとは思わなかったけど」 「ピアノもよかったが……」 「母さんでしょ? まあ、あたしに歌わせるつもりだったみたいだけどね」 「どうしてやめたんだ?」 「あんた、歌の内容、知ってる?」 「長門から歌のタイトルは聞いた」 「そう」 と言いながら、ハルヒはその辺りの食べ物を手当り次第に口に詰め込む。 「今日はじめて席について食べられるわ。誰のお祝いだか、わかりゃしないわね」 「まったくだ」 「ん? なにをぶーたれてるのよ?」 「ぶーたれてなんぞない」 ハルヒはおれのほっぺたを両方の手でつかみ、うにうにと伸ばす。 「さあ、ぐーとでも言ってみなさい」 「ぶー」 ああ、あわれ。我は子豚なり。 度を過ぎた宴はやがて終わり、手回しよく配車されたタクシーが参加者をそれぞれ送って行った。これだけ、手回しの達人たちが揃っているのだ、不思議というには当たらない。 「おーい、今日の主役その1」 と向こうで呼んでいるのはハルヒの親父さんである。 「もう残ってるのは俺たちだけだぞ」 「あの、うちの家族は?」 「妹ちゃんが寝ちまったんで、早々に引き上げられた。愚息をよろしく、とのことだ」 「やれやれ」 「今日は泊まってくだろ?」 「ええ。お邪魔します」 「すまんが、そこでつぶれてる主役その2を、叩き起こして自分の足で歩かせるか、担いで来てくれ。なあに、そのままさらっていけ、とまではいわん。そこのタクシーまでだ」 「すみません。選択肢その1は無理です」 「涼宮家でも、母さんだけができる荒技だ。……今日はずっと浮かない顔だな」 「いや、ちょっと疲れただけですよ」 「疲れているか、ぶーたれてるかぐらいは、バカ親父にも区別がつく」 そう言って親父さんはゆっくりと歩いてきた。そして羽目を外して酔いつぶれ、テーブルに突っ伏して寝ているハルヒを見下ろす。 「幸せな奴だ」 親父さんはハルヒの頭をぽんぽんと叩いた。 「こいつは好きなことやって、何回かは頭ぶつけて転んで、たとえそれでも好きなことやって一生過ごすんだろうさ。キョン、こんな奴はいいから、おまえ自身が幸せになれ。大抵のことは、それで何とかなるだろう」 「……キョ〜ン、もう食べられないわよお、……むにゃむにゃ」 ハルヒ、ベスト・タイミングにしてベスト・コンテンツの寝言。親父さんは「おまえはオバQか!」と古いツッコミを入れている。やれやれ。俺も思わず笑ってしまう。たとえば歳を取り、懐かしく思い出したりするのはきっと、なんでもないこういう瞬間なんだろう、とふいに思った。 「おい、ハルヒ、おぶされ。帰るぞ」 「……キ、キョン?……あんた、あたしに……何しようってんのおぉ……ぐう」 「何もせん。家に帰るんだよ」 「……あ、あたしの……家はねぇ……」 背中をハルヒに向け、椅子に座っているこいつの高さにあわせてしゃがむ。親父さんがハルヒの腕を俺にのっけてくれる。ハルヒの腕が俺の前で交差する。ハルヒの体重が俺の背中に移動してくる。 「……ここに、決まってんでしょ、このバカキョン!」 「ハ、ハルヒ、落ち着け。く、首がしまるっ」 「お父さん、済みましたよ。ん? どうしたの、二人とも? 真っ赤になって」 向こうからハルヒの母さんの声が聞こえる。が、ハルヒの細い腕が、俺の首にはまりすぎるくらいにぴったりすぎて、絞まる……。 「俺は笑い過ぎだが、キョンは窒息しかけだ」 「はいはい」 ぺしりっ、と乾いた音。び、ビンタですか? 「んあ、母さん? って、キョン! 親がいるのに何してんのよ!!」 「ほんと親が二人も揃っていてよかったわ。ハル、もうちょっとで未亡人になるところよ」 手を放し、俺の背中でおろおろするハルヒ。となりで馬鹿笑いする親父さん。ニコニコしながら号令をかけるハルヒの母さん。 「じゃあ、みんな、家に帰りますよ」 「働かざるもの食うべからず、って言葉、知ってるかしら、キョン?」 涼宮家に着いてから、ハルヒの母さんがハルヒを部屋に連れてゆき、自分も寝室へと退散した。 残された俺と親父さんは、居間のソファをそれぞれ占拠し、 「プロポーズになんで花持ってたかって? 女性に贈るのは花と決めてたんだ。ヘタ打って別れたにしても、花なら腐って消えるから物証が残らない。母さん? 『ああ、もらった薔薇はポプリにしました』だと。さすがに変色はするが、香りなら10年は楽に持つらしいぞ。50年ものなんてのもあるらしい。完敗だ」 といったような、多分のろけ話を聞かされているうちに、いつの間にか寝てしまった、ということはどうにか記憶にある。 目が覚めて、俺を見下ろしているハルヒは、すでにハルヒ100%状態であって、見回すと居間には俺一人残され、親父さんの姿もない。 怒ってみせているハルヒの眉の角度を見れば、それが上機嫌を押し隠すための照れ怒りだということはわかる。あと、俺は腹が減っていた。総合的に判断すれば、こちらには一分の勝率もあり得ないではないか。 顔で怒って心ごきげんなハルヒが手渡したのは巻き尺だった。 「はい、これ。部屋の使い方を考えるのに、間取り図が必要でしょ。測ってきて」 「あの広さの洋館を俺ひとりでか?」 とはいえ、せめてもの抵抗を試みる。 「あたしも鬼じゃないわ。親父を連れて行きなさい、どっかで転がってアニメ見てるから、拾って来て。もし寝てたら、死なない程度に叩き起こしてかまわないから」 いや、言おう。ハルヒ、おまえは鬼だ。 「ああ見えて、意外と役に立つわよ」 そんなことは分かってる。性能には何の不足もないだろうさ。しかし、あの親父さんである。 どうして神は、かくも高い能力を、かのような人格に与えてしまったのだろうか。意地悪か?それとも悪戯か? 人を試そうっていうのか? と、あれやこれやを思案していると、のっそりと親父さんが登場した。 「お言葉を返すようだが、バカ娘」 と親父さんはぶーたれる。 「なによ、文句あるの、バカ親父?」 「俺は忙しい」 「36時間寝ないで、ネット・ゲームやってる、あんたのどこが忙しいのよ?」 「それは受け手のポジションに甘んじていたこれまでの俺。これからは送り手の立場に立って世界に向き合うつもりだ。だから忙しい」 「忙しい、つ・も・り でしょ?」 「明日中に『涼宮オヤジちゃんの憂鬱 二ノ巻』をネット配信しなくてはならん」 どうやって、そんなもの……つくったんですか? あと、一ノ巻は? 「もちろんMADだ。足りないところはElanceでお仕事オークションしたら、インドのデザイナーが落札した。すごいスキル・セットでPerlとJAVAとRubyとPHPを使えて、王族みたいな英語でドキュメントまで書けるのに、1時間あたり5ドルで働くんだぞ。どことは言わんが日本にあるのに日本語が通じないサポート・センターとは、どえらい違いだ」 ああ、何ゆえこんな危険親父にWeb2.0を、のれんに腕押しを、猿にモノリスを……人類は、テクノロジーとの付き合い方を、真剣に考えなおすべき時期に来てるんじゃないだろうか。 「あとここだけの話、ハルヒの幼稚園時代のビデオがあるんだが、ニコ動にアップするってのはどうだろう?」 「親父さん、そりゃ犯罪です!」 「俺は親だぞ。だったら『エスパー魔美』はどうなる?」 「あれはバイトでお金を渡してます」 「いつか親になって娘を持ったら、油絵に描いてやろうと思ってたんだが、俺って勝ち組か?」 「実現……してないですよね?」 「母さんにバレた」 「つまんない話してないで、さっさと行ってきなさーい!!」 ハルヒにどやされ、男二人(俺と親父さん)は、道具をひっつかんで走り出す。 その2へつづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5840.html
涼宮ハルヒの共学 何か胸騒ぎがする それもものすごくイヤなヤツが ゆっくりと窓の外を流れる見慣れた景色を眺めながら 俺は安易に単独行動をしてしまった 相変わらず行き当たりばったりの自分の行動力を悔んでいた 俺は今、鶴屋家差し回しの車の助手席に乗っていた 運転しているのはあまりよく顔を知らない、鶴屋家の使用人だった これが新川さんならば ものの1分もかからずに到着できるぐらいの近距離なのだが 鶴屋家の運転手さんはひたすらゆっくりと まるでリムジンでも運転するような丁寧さで車を走らせていた 鶴屋邸から長門のマンションまでは車ならそう遠い距離ではない なだらかな下り坂を下りていると、見慣れたレンガ造りのマンションが見えてきた もうすぐだぞ長門 ハルヒに古泉、朝比奈さん 早くみんなの顔が見たくて焦る 横道に逸れてしばらく走れば長門のマンションの入り口だ 少し安心してシートに座り直すと突然 全体にフィルターでもかけたように、長門のマンションがぼやけだした ????? これはいったい? 運転手さんもその状況に気付いたようで 「あれ?」とつぶやいてブレーキを踏んだ その直後だった バアーン! 激しい音がして車のボンネットに何かが叩きつけられた 思わず自分の顔を両手で覆ってしまう 狭い道なのでそんなにスピードが出ていなかったこと 既にブレーキを踏んでいたこともあって ボンネットに叩きつけられてそのままゴロンと転がり落ちたその物体を車は跳ね飛ばさずに済んだ 慌ててドアを開けて外に飛び出した俺の前で倒れていたのは 北高のセーラー服を着て髪に黄色いリボンを巻いている女子 短いスカートがまくれ上がり、死んだようにピクリとも動かないそれは・・・ 涼宮ハルヒだった ハルヒ? 何でお前がこんな所にいるんだ? どこから落ちてきたんだお前??? 話は少しだけ過去にさかのぼる 俺たちが無事に2年生に進級し 我がSOS団は無謀にも新入部員募集などという不届きなイベントを繰り広げていた ハルヒの豪放磊落というのか、それとも傍若無人というのか 相変わらずコイツを現す四字熟語には不自由しないある日 部室にいつもいるはずのメンバーが一人足りないことに気付いたのもやっぱりハルヒだった SOS団の初期メンバーでもあり、唯一のまともな文芸部員で 元眼鏡っ子で無口で色白の薄幸の美少女、しかしその実態は この銀河を統括する統合情報思念体が調査のために派遣した対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイスである(ちょっと一息) 要するに宇宙人が作ったアンドロイドの長門有希が欠席していた 慌てて長門に電話をかけるハルヒ 古泉も朝比奈さんも不安な表情で俺の顔を見ていた 「キョン!行くわよ!」 ああもちろんだとも 言われなくてもそうするさ あの長門が発熱して寝込むなんてあり得ない いや、あるとしたら理由ははっきりしている 例の天蓋領域とやらの侵略がまた始まったのだ メイド姿の朝比奈さんを大急ぎで着替えさせ 長門を除くSOS団一行は、足音も激しく北高を後にした 先頭をずんずん歩く団長の後を、俺たちが一団になって追いかける かわいそうな朝比奈さんはなかなか追いつけずにフゥフゥと息を荒げているが それでも泣き事などは全く言わない 朝比奈さんにもこの異常事態は十分分かっているはず そんな朝比奈さんの携帯がプルルルと鳴った 走りながら携帯を開いた朝比奈さんは小声でボソボソと話していたが すぐに電話を俺に渡してきた 「キョン君、電話です・・・」 ん?俺にですか? いぶかしく思いながらも携帯を受け取って何ですかと聞く 「ああキョンくん?ごめんだよっ忙しい所を! キョンくんの番号を知らないんでみくるにかけたわけさっ 手短に用件だけ言うね あのさ、例の超合金があったろう?うっとこの山に埋まってたヤツさ あれが今日なくなってるんだよっ!使用人が見つけたんだけど どうしようかなって思ってたんだけどさっ キョンくんにまずは連絡した方がいいと思って」 例の超合金?まさかオーパーツの事ですか? 「そうだよっ!あれあれ でも様子が変なんだよねっ 土蔵の鍵は開いてたけど別に壊された形跡もないし 他の物には一切手も触れてないみたいだしさっ 最初からあれだけを狙ってたような感じなのさっ だから警察に届ける前にキョンくんに知らせたってわけだ」 分かりました、俺がすぐ行きます その・・・警察に届けるのは少し待ってもらえますか? 「うん!いいよっ!最初からそのつもりだったからさっ」 俺は電話を切って朝比奈さんに返し 古泉に話しかけた ちょっと気になるんで鶴屋さんの家に行くから長門の事を頼む 「緊急事態ですか?」 いやまだ分からん それを確かめてくる 「僕もご一緒しましょうか?」 いやお前はハルヒと一緒にいてくれ まだ何が起こるか分からんし 起こるとしたらまずは長門の所だ 「分かりました。何かあったらすぐに連絡を下さい」 もちろんさ おいハルヒ 「あ?」 ちょっと俺は後から行くから 「どうしたの?」 ちょっと野暮用だよ すぐに合流するから 「あんた!有希よりも大事な急用なの?」 そんなことはない 長門も心配だけど、もしかしたら関係があることかもしれないから 「1人で大丈夫なの?」 ああ ちょっと見てくるだけだ 鶴屋さんの所だから1時間で往復できる それまで長門をよろしく頼む 「ふーん。よし分かったわ、早く行ってきなさい」 おいハルヒ 「何よ?」 SOS団を頼んだぞ 「あったりまえじゃないの!バカじゃないの?」 頼むぞ 「キョン!早く戻ってきてね」 思い返せば、このハルヒの一言もまた、何かの予感をしていたのだろうか 珍しく眉を伏せて、今駆け下りてきた道をまた走り出した俺の背中を見つめていた アップダウンの多いこの街の地形にもずいぶん慣れたつもりだったが イレギュラーな出来事にはすぐには対応できない 北高までの登り道を半分ほど登り、途中で折れてまっすぐ行った所にある 相変わらず犯罪的なお屋敷の長い塀を回り込み ようやく鶴屋邸の玄関に着いた時には俺の息は上がり、びっしょりと汗をかいていた 「ごめんねーこんな時に電話しちゃってさ、長門っちが熱出してるんだって?大 丈夫かなー」 俺はハアハアと荒い息をつきながら、とりあえず状況を聞いた 「さっき話したとおりなんだけどさっ、犯人はまるで最初からそれだけを狙って たみたいなんだよねっ。他の物には手も触れてないし、何であんなものに興味 があったのかなー」 鶴屋さんに案内されて、鶴屋家先祖代々の貴重な品が眠っている大きな土蔵の前に立った。 「何も動かしてないよっ、全部そのままにしてあるからっ」 確かに鶴屋さんの言うとおり、一見しただけでは泥棒が入った後とは思えない 乱雑に積み上げられた木箱やつづらなどがこじ開けられた形跡はなかった しかし入口付近にある小さな木箱だけが開けられていた 目撃者とかいなかったんですか? 「うん、使用人に聞いてみたんだけど、このあたりはあんまり誰もうろうろしな いからさ、鍵はおやっさんの金庫の中だし、おやっさんは夜まで帰って来ない から、誰かが鍵を持ち出す事もないと思うのさっ」 俺はしばらく考えたのちに鶴屋さんに頼んだ 心当たりはない事もないんですが、今はまだ話せないです でももしかしたら、何かの手がかりが見つかるかもしれないんで 俺が戻るまでは警察には知らせないでもらえますか? 「うん、分かったよっ!」 じゃあ後で電話します 必ず今日中に連絡入れますから 「うん。キョンくん」 はい? 「ハルにゃんをよろしくねっ!」 は? 「ハルにゃんはああ見えてもすっごく心配性なんだよっ みんなが元気でいられるように、ハルにゃんは必死なんだ そんなハルにゃんを元気にさせてあげられるのはキョンくんだけなんだからさっ」 はい 「頼んだにょろっ!」 いきなりの鶴屋さんの不思議発言だが この人にはある程度の予知能力のようなものが備わっているみたいだ 顔は明るく笑っているが、口調は真剣だった それが分かるので、俺も正直に答えた しばらく現場の状況をざっと確認してから、俺は鶴屋邸を後にした だんだん悪い胸騒ぎがしてくる 犯人は明らかにオーパーツだけを狙っている そしてオーパーツを狙うってことは、それがどんな機能を持っているかが分かっているはず そんな犯人の心当たりと言えば・・・ 長門が危ない 俺は直感的にそう思った 長門を寝込ませて力を封じ、その隙にオーパーツを使ってとんでもない事をやらかそうとしている そんな事をしそうな輩は地球上にそんなに多くはいない 俺はあの奇妙な長い髪をした不気味な少女 周防九曜の事を思い出していた さっき駆け上ってきた道を再び走り出してしばらく ようやく鶴屋邸の長い塀を抜けて住宅地を走っていると 人気の少ない交差点に止まっていたシルバーのワンボックスカーが静かに俺に近寄ってきた ただ長門のマンションに急ぐことだけを考えて他に頭脳が回らなかった俺は そのワンボックスカーが目の前に停まってスライドドアが開くまで、まさか自分の身に危険が迫っているとはよもや考えてもいなかった (同時刻、別の場所で) 「有希!有希!起きてるの?ねえ有希!開けてってば!」 涼宮ハルヒは鉄製のドアをガンガン叩き、近所迷惑な大声でわめいていた 玄関のオートロックの暗唱番号はあらかじめ聞いておいたものの、ドアを開けるには鍵が必要だ ドアを叩きながらわめくハルヒと、その横でオロオロする朝比奈さん そして少し遅れて古泉がエレベーターから出てきた 「今日は本当の緊急事態です、事情を説明して管理人から鍵を借りて来ました」 「古泉くん、早く開けて!」 古泉が長門の部屋の鍵を開け、ハルヒを先頭にドッとなだれ込んだ 「有希!有希!いるの?」 いつもの居間には長門の姿はなく、ハルヒは迷わずに奥の和室の襖を開けた そこには長門がいた ちゃんと布団を敷いて、静かに眠っている 「有希!大丈夫?熱はどうなの?ちゃんと薬飲んだ?」 「・・・・・・・問題ない、一過性のもの。寝てれば治る」 「みくるちゃん」 「ハイっ!」 「氷枕とか何でもいいから探して来て。それと古泉くん、もっとたくさん布団出 して」 「承知しました」 「有希、どうなの?つらくない?」 「・・・・・・・」 長門は力なく横たわったまま、布団の胸の部分だけが静かに上下している すぐに古泉が何枚かの布団を引っ張り出し、小さな長門に積み上げた 朝比奈さんはビニール袋に冷蔵庫の氷を詰め、濡らしたタオルも持ってきた 「有希、しっかりしなさいね。みんなここにいるから」 長門は薄く目を開き、ゆっくりと左右を見た 「・・・・・・」 その仕草でハルヒはすぐに、長門が探しているものを理解したようだ 「キョンならすぐに来るわ。ちょっと寄り道してるだけだから」 「・・・危険・・・彼が危険・・・」 「有希?」 「・・・・・・行かないと」 「有希!ダメよ動いちゃ!キョンはすぐに来るから もうしばらく寝てなさい!」 「・・・・・・」 長門は無理やり体を起こそうとしたが、すぐに力なく崩れ落ち ハルヒの手で再び寝かされた 「古泉くん、どう思う?」 「かなりの高熱ですね、救急車を呼んでもいいのじゃないでしょうか?」 「そうね、みくるちゃん、119番して」 朝比奈さんが居間にとって返し、受話器を持ち上げてプッシュボタンを押した (再びキョンの時間に) 俺のすぐ脇に停車したワンボックスカーのスライドドアが開き 声を上げる暇もなく、何本かの腕が俺を車内に引きずり込んだ 何事かをわめこうとしたがすぐに口をタオルのようなもので抑えられた 精一杯の抵抗のつもりで肘を張って暴れてみるが、その腕は誰にも当たらなかった 「じっとしてな。危害は加えん。ただちょっとおとなしくしてくれたらいいんだ」 俺の足がまだ空中にあるうちに車は再び走り始め、その後でスライドドアが閉められた 何だ?この展開は? 誘拐?この俺が誘拐だと? 今年の冬に朝比奈さんが誘拐されかけた、あのおぞましい経験がよみがえっていた まさかこの俺が誘拐されるとは? 俺に押し付けられたタオルはただの猿轡で 麻酔薬がしみこませられたりはしていない 走っている車の外の景色がすさまじい速さで流れていく その時、ドバーンと大きな音がして、俺は前方に投げ出された 前の座席のシートに叩きつけられ、肺じゅうの空気が一気に絞り出された 車の足元にゴロゴロと力なく転がっていると、2回目の衝撃が来た 今度は後ろから何かが追突し、俺を襲った誰かの足に体当たりした 「村上だけ残れ、後は出て応戦しろ」 誰かのそんな声が聞こえ、再びスライドドアが開いた 俺は座席の足元にうずくまり、外の様子が全く理解できない 苦労して起き上がろうとすると、誰かに頭を押さえつけられた 「いいからじっとしてろ」 ドスのきいた声でそう言われ、固い靴の底で頭をグリグリと転がされる いったいどうなってるんだ? この状況は? アドレナリンが強烈に噴出する頭の中で必死で考える 俺は誘拐されかけていた その車に何かが衝突した そして何人かが飛び出して行った ようやく自体が飲み込めてくる 俺を誘拐するグループと言えば心当たりは少ない いつぞや朝比奈さんを誘拐してカーチェイスをした時の連中だ と言うことは、衝突した車に乗っているのは俺を助けようとしてくれている連中 まさか? 混乱する状況を必死でまとめようとしていると、突然外から声が聞こえた 「彼を放しなさい!」 この声は・・・やっぱり・・・ 俺を見張るように言われていた村上と名乗る男がすかさず反応した 固い金属の棒のようなものを俺の後頭部に押し当て 「動くとこのガキを撃つぞ」 撃つってまさかおい 俺の頭に突きつけられているのは・・・銃? 外からの声はさらに続く 「撃ちたいのならお好きにどうぞ。でもその後どうなるかを理解していますか ?こちらも武装はしています。彼を守るためなら発砲は辞しません」 「くそっ」 村上という男は俺の頭を引きずり上げ、おかげで俺は外の情景を見ることができた 開け放たれたドアの前に立っているのは 予想通り古泉の所属する機関のグループ そのリーダー格と思われるスーツ姿の美しい女性 森園生さんだった やはりあの時の艶然とした微笑でひたと村上に視線を据え その手に持っているのは拳銃だった 「撃たないのですか?」 俺の頭を鷲づかみにしている村上の手はぶるぶると面白いように震えている やはりこんなチンピラと森さんでは全く格が違う 森さんは無造作に車内に踏み込んで来て村上の銃を奪い取った 最後の抵抗とばかりに村上は手を振り上げるが すさまじい笑みを浮かべたままの森さんは軽くその手を捻り グギッという鈍い音とともに村上を車の外に投げ飛ばした 合気道か何かの奥義なのか、右手で拳銃を構えたままで 森さんは村上を一瞬で気絶させてしまった 「さあ早く、まずは脱出です」 森さんに手を取られて俺は必死で車から降りた 車3台による壮絶な衝突事故の現場で、数人が取っ組み合いをしていた おそらくこいつらは機関のメンバーと、そして俺を誘拐しようとした橘京子の所属する集団だろう 多丸兄弟とおぼしき2人もいた 「ひとまず鶴屋邸へ」 そう言って森さんは俺の手を取ったままで走り出す 俺より速い森さんの俊足に必死でついて行ったが、すぐに俺の背後でダアーンと鋭い銃声が響いた 俺の耳元を熱い空気がかすめ、1発の銃弾が森さんの背中に命中した もんどりうって森さんは倒れ、俺も釣られてゴロゴロと地面を転がった も、森さん! 倒れ込んだ2人の後ろからタタタタと駆けてくる足音が聞こえる 俺は起き上がろうと必死でもがく 森さんは倒れたままピクリとも動かない 迫る足音が目前に迫った時、頭上から鋭い声がした 「ちょい待ち!そこまでなのさっ!」 それは鶴屋さんの声だった 事故の音を聞きつけたのか、それとも銃声を聞いたのか まだ北高の制服を着たままの鶴屋さんが走って来る賊をにらみつけていた 追いかけてきた2人は鶴屋さんを見てピタリと足を止めた 「ここで騒ぎを起こすとはいい度胸だね、それなりの覚悟はしてるのかなっ? それとも私を知らないにょろか?」 「・・・・・・」 「車は放っといていいからさっさと失せた方が身のためだよっ すぐに警察がやってくるのさっ」 男2人は顔を見合わせていたが、やがて来た方に走って逃げた ようやく起き上がった俺の目に、新たに近づく人影が見えた 「あなたも早く逃げるがいいさっ」 その人は機関の人間、新川さんだった 「すでに全員撤退の指示は出しました 森の様子を見たいのですが」 「じゃああんただけ許そうっか ここに置いとくわけにもいかないしね うちまで運ぶの手伝って」 鶴屋さんと俺、そして新川さんの3人で、動かない森さんを担いで運んだ ようやく鶴屋邸に入り、新川さんがすぐに処置を始めた すでにパトカーのサイレンが狂ったように走り回っている 新川さんは森さんのスーツの上着を脱がせ、無造作にブラウスも引きちぎった 森さんの真っ白な柔肌がむき出しになり、 おびただしい出血とともにむごたらしい傷跡が・・・・・・残っていない 森さんは防弾チョッキを身に着けていた 上着とブラウスを簡単に突き破った銃弾だが、防弾チョッキにはかなわなかった 平べったく潰れた銃弾は紺色の繊維質に阻まれて 森さんの素肌は青いアザができているだけだった 「ただの打撲ですね、もしくは骨にヒビが入った程度でしょう」 すぐに森さんが大きく息を吐き、意識を取り戻した 「無事・・・でしたか」 すみません森さん 俺のせいでこんなことに 新川さんに助け起こされた森さんは 透き通るような微笑を浮かべたままで言った 「大丈夫です。万一に備えてありますから 私たちはあなたと涼宮さんを守るためならいつでも覚悟はできています さあ、もうここには用はないはずです 涼宮さんを守ってあげて下さい 古泉とともに・・・」 分かりました 俺が立ち上がると森さんは最後にこう言った 「涼宮さんはあんな性格だからあなたにはまだ理解できないでしょうけど、 あなたをとても頼りにしているはずです 今あなたと離れて一番心細いのは涼宮さんです 早く行ってあげて下さい そして、大事にしてあげて下さい」 ちょっとドキッとする森さんの言葉だったが 今はその意味について深く考えている場合ではない 鶴屋さんと森さん、そして新川さんに頭を下げると、俺は走り出そうとした 「ちょい待ちキョンくん!うっとこの車に乗っていくといい さっきみたいなことはもうないと思うけどね、でもその方が早いからさっ」 鶴屋さんはてきぱきと使用人に指示を出し 森さんを部屋に運ぶことと車を用意すること そしてさっきの銃撃戦についてきつく緘口令を言い渡した 玄関の前に現れた高級車に乗せられた俺はもう一度鶴屋さんに頭を下げた 「キョンくん、ハルにゃんをよろしくねっ! それと・・・言っていいのかどうか分からないけどね・・・ ハルにゃん、結構いろんな事知ってるよっ」 えっ? 「みんなの事だよ 何か不思議な事がめがっさ起こってるって ハルにゃんの知らない所で みんなが何かしてるんだろうなって」 本当ですか?鶴屋さん? 「後は直接確かめたらいいさっ!ハルにゃんにねっ!」 鶴屋さんはそう言ってドアを閉め、車は走り出した (再び同時刻、別の場所で) 「涼宮さんっ」 「どうしたのみくるちゃん?」 「電話が・・・電話が通じません・・・」 「ん?それはどういうことでしょう?」 古泉が素早く立ち上がり、朝比奈さんから受話器を受け取った 通話ボタンを押しても発信音がしない 「これは・・・?」 その時、部屋の中が一瞬真っ黒になり、まるで夜の闇のようになった 部屋の内外で聞こえていた雑音も消え、長門の部屋は沈黙に閉ざされた 「ふわぁぁぁっ」 「ななな何よこれは?古泉くん?どういう事?」 古泉が口を開くよりも早く、暗闇に何かが浮かび上がった ぼんやりとした影はすぐに凝集し始め、やがて4つの人間の形を作った 素早く古泉が前に出て、ハルヒと朝比奈さん、そして眠っている長門をかばうように立った いつものニヒルな笑顔の面影は全くない 古泉のこめかみからタラリと汗が流れ落ちた 現れた4人はもちろん あの時突然出現した集団だった 「・・・・・・・・・ここは・・・・・・暗い・・・・・・気持ちが悪い」 いち早く口を開いたのは周防九曜だった 実体化するが早いか、長門が寝ている和室に踏み込み、ひたと視線を長門に据えた 「かわいそうな寝顔・・・・・・こんな世に生まれなければ、1人の姫として暮らせたものを・・・・・」 「それ以上近づかないで下さい」 古泉が素早く割って入る 「周防さん、まずは話し会いましょう」 そう声をかけたのは4人組のリーダー、勝手に神に祭り上げられてしまった佐々木だった 「・・・・・・かわいそう・・・食べてあげたい・・・・・・」 周防九曜は長門から視線を放さずにそうつぶやき 他のメンバーの横に戻った 「ちょ、ちょ、ちょっと何なのよあんたら どうやってここに入って来たのよ?」 「お久しぶりです涼宮さん、いつぞやは突然現れてすみませんでした あれ?キョンは?」 「まずは私の質問に答えなさいよ 無礼でしょう?」 「ごめんなさい。実は私たちにもよく分からないんです 周防さんが突然ここに行かないとって言って 何かに運ばれてきたみたいなの」 「全然説明になってないわよ あんたたちいったい何者なの?」 ハルヒが鋭い視線で闖入者たちを睨みつける 穴でも開けてしまいそうなぐらいの激しい視線だった 「私が代わりに説明するわ」 そう言ったのは古泉と敵対する組織の一員、橘京子だった 「周防さんはね、時が満ちたと言っているの つまり我々と佐々木さんの力があなたたちのものを上回る 今日のいま、この場所で何かが起こると」 「あわわわ・・・・・・」 あたふたする朝比奈さんをかばいながら、ハルヒは口から泡を飛ばして叫んだ 「ふざけんじゃないわよっ!ここはあんたたちがいる場所じゃないの! 見て分かるでしょう、病人がいるのよ! さっさと出ていきなさいっ!!」 「ふん・・・まるでボス猿みたいだな」 そう口を尖らせてうそぶくこの男は 朝比奈さんの組織と対立している未来人組織から派遣されてきた 自称藤原という男だった 「ボ、ボ・・・・・・」 古泉がハルヒの横に立った 「涼宮さん、今怒ってしまえば向こうの思い通りになります ここはひとまず冷静に、まずは話を聞きましょう」 「古泉くん、悪いけどね あたしは人の家に土足で踏み込んでくる野蛮人の話なんか聞く耳持ってないの」 ハルヒは両の拳を握りしめている 最初は誰に殴りかかろうかと品定めしているようだ 「・・・・・・あなたは・・・汚ない・・・」 「何ですって?」 「その顔、その声、全てが汚らしい・・・・・・」 「ハァ???」 ハルヒは最初にぶちのめす相手を決めたようだ 握り拳を振り上げて周防九曜に突進しようとした 慌てて古泉が止めに入る 「古泉くん!放しなさい!」 「涼宮さん、ひとまず落ち着きましょう」 古泉はハルヒを無理やり引きずって闖入者から少し遠ざけ 声を潜めて囁いた 「・・・僕たちの戦力はいささか不足しています 全員揃うまではとにかく様子を見ましょう 今のところは、何が目的でやって来たのかも分かりませんので」 「古泉くん」 「はい」 「あんた、何か知ってるのね」 「何かと申しますと?」 「私の知らない事よ こいつらが何者で、何が目的なのかをね」 「それを説明してくれる方が現れるまで、ここは1つ、穏便に」 「キョンの事ね」 「はい」 「・・・・・・分かったわ」 ハルヒはようやく拳を緩め、闖入者たちと対峙した 「んで、話を聞こうじゃないの」 「ようやく落ち付いてくれましたか やはり調査通りの人ですね、あなたは」 橘京子が楽しそうに言った 「実は私たちにもまだここに来た理由は分からないのです こちらの周防さんが言った通り、まもなくここで何かが始まります それを確かめるために来たのです」 「それでは全然説明になっていませんね 皆さんのやっている事は明らかな住居不法侵入です 警察を呼ばれたくなかったら、今すぐ退散すべきです ここには病人がいます、わきまえて下さい」 「・・・・・・来る」 「何が?」 「・・・・・・終わりの世界が来る・・・・・・それは私たちを待っている・・・・・・もうすぐ」 ハルヒがまたブチ切れそうになった 「もう我慢できないわ!今すぐここを出ていきなさい!さもないと」 「お待たせしましたー」 突然部屋につむじ風が巻き起こり、目を開けてられないほどになった 激しい旋風はあたりをなぎ払い、全てを持ち上げてぐるぐると回転した 「あひゃぁあああーっ!」 朝比奈さんのか弱い悲鳴とともに、全てが吸い込まれていった (再びキョンの世界) 俺を乗せた鶴屋家の車は静々と走り、やがて長門のマンションが見えてきた頃 視界が急にぼやけてきた 長門の高級マンションがぼんやりかすみ、俺は目をごしごしこすった 「おかしいですね」 運転していた鶴屋家の男性がそう言ってブレーキを踏んだ直後、激しい音がして車のボンネットに何かが叩きつけられた 見慣れた水色のセーラー服、そんな気がした セーラー服はボンネットの上を弾んで転がり落ち、急ブレーキをかけた車の前方に倒れた ハルヒ! 俺はドアをもぎ取るように開け、車から飛び出した 予想した通り、空から降って来たのは涼宮ハルヒだった いったいどこから落ちてきたのか、まさか長門の部屋のある7階から落ちたのか? 急いでハルヒを助け起こし、その顔を覗き込んだ 「ったあぁーっ」 見ると車のボンネットは大きく凹んでいる 7階かどうかは分からないが、かなりの高さから落ちてきたようだ 運転していた男性も、車から降りてハルヒを見ていた おいハルヒしっかりしろ 何が起こったんだ? ハルヒはしばらく目を白黒させていたが、ようやく焦点が定まってきたのか、俺に気付いて大声を上げた 「キョン!キョンじゃないの!どうやってここに来たの?」 えらい元気そうだなハルヒ 車をこれだけ凹ませるほどの高さから落下したのに 何かのフォースでも働かせたのかそれともただ尻が異常に固いのか どうやって来たのかは俺が聞きたいぞハルヒ いったい何で空から降ってきたんだ? 「空から?え?あれ?ここはどこなのよ?有希の部屋じゃないの?」 おいハルヒ 長門の部屋でいったい何が起こったんだ? 長門はどうなんだ?体の具合は? それに朝比奈さんと古泉は? 「そうだ!キョン!大変よ!有希が・・・変な4人組が入ってきて それからあの、あの子が入ってきて」 もういいぞハルヒ とにかく長門の部屋に行こう 長門が心配だ 他のみんなもな 俺はハルヒを抱き起こして立ち上がった 鶴屋家の運転手にとりあえず帰ってもらう事にして、ボンネットの件は後で謝りに行くからと伝えた そして振り向くと・・・ ??? 空から降ってきたハルヒを抱き起こし、とにかく長門の部屋に入ろうと、玄関があるはずの場所に駆け込むんだ俺だが マンションの入り口には何もなかった 玄関もなければオートロックの操作盤もない というかマンション自体が消えてなくなっていた レンガ造りの高級マンションがそっくりそのまま消えてなくなっていた 「ちょっとキョン、これどうなってるの?」 どうって、俺にも分からん 落ちつけ俺、よく考えろ マンションがあったはずの平面には全く何もなく、むき出しの地面だけが広がっていた 向こう側にあるはずの、シャミセンを拾った空き地がここからそのまま見えた どうなってるんだこれは ハルヒの手を掴んだまま、強引にマンションがあったはずの空間に踏み込んでみた やっぱりか 予想通りだ 俺とハルヒの前にはぐんにゃりした白い壁が立ちはだかった マンションが消えてなくなったわけじゃないんだ 誰かがここにバリヤーを張っているんだ それはお前かハルヒ? 「はあ?私が何でこんなことするのよ?」 すまんハルヒ ちょっと考え中だ 俺はハルヒの手を放し、ダッシュで突入を試みた チリチリと小さな火花のようなものが散り、俺の体は押し戻された 痛みも衝撃もなく、ただやんわり跳ね返された 「キョン、これって・・・前のあれかしら?」 ああ あれに近いものだ お前の仕業じゃないとしたら こんな事ができるのは他には・・・ けっこうたくさんいるな 「ちょっとキョン」 何だよもう 今考え事してるんだから 「キョン!」 ああ? 「ちゃんと説明しなさい! あんたが何か知ってることぐらい、あたしにはお見通しなんですからね! あんたはこんなに不思議な物が目の前に現れても、顔色ひとつ変えないじゃないの! 何か知ってるんでしょう?包み隠さず全て話しなさい」 さっきの鶴屋さんの声が耳によみがえる ハルヒはいろいろ知ってるっていうのか 今ここで説明するしかないのか ついに切り札を出すしかないのか 今ほどここに古泉がいてほしいと思ったことはなかった あいつのアドバイスが聞きたい しかしハルヒ、説明してる暇はないぞ 早く長門の部屋に行かないと 「だから説明しなさいって言ってるのよ! 有希がおかしくなったことにも関係あるんでしょう? あの4人組の事だって」 4人組だと? あいつらに会ったのか? あいつらが来てるのか? 「そうよ あの4人組が来て 髪の長い女が私に汚いとか言い出して ブン殴ってやろうと思ったら急に空に放り投げられたのよ! ああムカつくわーあいつったら」 待て待てハルヒ ちょっと整理させてくれ 俺と別れた後であいつらに会ったのか? それとも長門のマンションに入った後か? 「入ってからよ 有希がひどい熱だったから氷枕と布団たくさん用意して 救急車を呼ぼうとしたら電話が通じなくて どうしたんだろうと思った時に入ってきたのよ ドアも開けずに土足で入ってきて ねえキョン、あいつらいったい何なのよ?」 おいハルヒ あいつらの目的とか何か聞かなかったのか? 「聞いたけど全然意味分からないわよあんなの」 思い出せハルヒ あいつらは何と言ってたんだ? 「どうでもいい事ばっかりよ」 いいから思い出せハルヒ! 「何よもうキョンってば・・・ちょっと待って 周防とかいう女が他のヤツらを連れてきたとか言ってたわ 時が満ちたとか、今から何かが始まるとか 終わりの世界がどうとか言って、そしたら・・・ そうだ!あの子が来たのよ!」 あの子って誰だ? また他の人間が来たのか? 「そうよ!思い出したわ。あの新入生よ! 新入部員候補の1年女子よ」 はあ? 何だと? 「新入部員候補の中に小柄な女の子がいたでしょう?あの巻き毛の子」 ああそんなのがいたな確かに 何となく不思議な印象だったな 覚えてるぞ しかし何でその子が来たんだ あいつらの仲間なのか? まさかスパイだとか? 「分からないけどたぶん違うと思う 来たのは別々だったし、あいつらも驚いた顔してたから」 その時突然 俺の背中に鳥肌が立った ものすごく嫌な予感がした おいハルヒ 良く聞け その1年女子は何か持っていなかったか? 「何かって?」 金属の細長い棒みたいなものだ ピカピカ光ってるヤツだ 「そこまで覚えてないわよ! その子が出てきた途端に部屋に嵐が起こって、気がついたら外に放り出されてたんだから」 待て待て待て待て くっそう古泉に会いたい 俺はどうもこういう複雑な事態には対処できない あいつの的確な状況分析がとても恋しい 「そうだ」 何だハルヒ 何か思い出したのか? 「お2人にはまだ登場してほしくないからって聞こえたような気がする」 お2人?そう言ったのか?その新入生は? 「違うかもしれないけどそう聞こえた」 お2人って事はもしかして・・・ 俺はハルヒの肩を抱いたままで後ろを振り返った 目の前にあるマンションはすでに消滅していたが 後ろの景色も違うものに変わっていた いやちょっと違うぞ 景色はさっきと一緒だが何か空気の匂いが違う それにこの不思議な色はいったい何だ・・・? 何だか安心感を与えてくれるような落ち着いたベージュの空 そよとの風も吹かず、じっとりとしているが不快ではない この空は覚えているぞ ハルヒといっしょにあいつが飛ばされたとしたら この空を作り出したのは この閉鎖空間を作ったのは やっぱりお前か 佐々木・・・・・・ 「申し訳ないキョン 今はまだ君たちをあそこに入れるわけにはいかないようだ」 リンク名 その2に続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3419.html
「・・・・・・・・・・なんでよ?あたしのこと嫌いなの?」 ハルヒが泣いている・・・・いつもの笑顔からは想像も出来ない泣き顔 俺はハルヒを悲しませてしまったのか、あの太陽のような笑顔を守ってやれないのか 「そんなことない!好きだ!・・・・でも今は・・・・・・」 俺がハルヒと付き合い始めてから早1ヶ月。変わったことと言えば毎日一緒に登校してるってことと、日曜日の勉強会が午前になって午後からはデートになったってことぐらいだ ・・・・・・そうそう、どうでもいいことかもしれんが俺にはうれしい変化がもう1つあった。ハルヒのポニーテール仕様率の異常なまでの上昇だ。髪をバッサリ切ってしまう前のポニーの長さには到底届かない、言うなればチョンマゲのようなポニーだが、そこがまた可愛い!抱きしめたくなる衝動に駆られるね、正直言って・・・・・・・俺って変態だな 「・・・・・・・って有希は言うんだけど、みくるちゃんはね・・・・・ってあんた聞いてるの?」 「ん?あぁ聞いてるぞ。で朝比奈さんは何て言ったんだ?」 「なんだ、聞いてたんだ。間抜けな顔してたから回想にでも浸ってたのかと思ったわ」 するどいな・・・・・やっぱり心が読めるんじゃないか? 「なんだかんだ言ってもキョンはあたしの話を聞いててくれるから大好きよ!」 コラ!登校中にそんな大声で「大好き」発言するんじゃありません・・・・・・はぁ、周りの目が痛いぞ 「別にいいじゃない、付き合ってることなんて皆知ってるんだから」 ハルヒのとんでもパワーは今でも健在。古泉の機関の推測である、俺と付き合えば力も消えるってのは大外れで長門曰く増大したそうだ。その証拠がこの「皆知ってるんだから」である 話は遡ること1ヶ月前・・・・・・ 「よう!キョン・・・・・お、嫁も一緒か」 空気の読めない男No.1(俺予想)の谷口・・・・・うわぁ、ハルヒがトマトだ 「だだだだだだだ誰が誰の嫁よ!ぶっ殺すわよ」 言ってることは連続殺人鬼並なのに顔がニヤケてますよ 「いて!蹴るこたぁないだろ・・・・・だって付き合ってるんだろ?」 「あれ?谷口。お前、何でそのこと知ってるんだ?俺は誰にも言ってないぞ?・・・・・・ってまさかハルヒ、皆に言いふらしたのか?」 「そんな非人道的なことあたしがすると思う?」 いや、朝比奈さんに強制わいせつしてるが、あれは人道的行為なのか?他にも挙げたらキリがねぇ 「何ブツブツ言ってるのよ!とにかくあたしは、言いふらしたりなんかしてないわ」 「だよな・・・・スマン、ハルヒ。疑ったりして」 「べ、別にあんたが謝る必要なんてないわよ・・・・あたしを好きでいてくれればそれで・・・・」 「・・・・・・・・・・ハルヒ」 「・・・・・・・・・・えぇっと・・・・・・・・俺、先行っていいか?」 谷口は相当イライラしてるみたいなんだが・・・・・正直スマンかった 「いや待て。誰から聞いたんだ?その付き合ってること」 「・・・・・・ん?そういえばそうだな。特定の誰かから聞いたって訳でもねぇし」 「はぁ?誰からも聞いてないのに知ってる?なんじゃそりゃ」 「いやぁ、俺も不思議なんだが自然とそう思ってたよ」 「不思議?!」 あぁ、ハルヒの目が輝いてる・・・・谷口、ご愁傷様 「ちょっと谷口!その話詳しく聞かせなさいよ」 谷口はネクタイを掴まれて・・・・カツアゲされてるみたいで可哀想で助けてやりたいのは山々なんだが確認しとかないとかけないことも出来たしな 「ハルヒ、先行くぞ」 ・・・・・・不思議となれば俺の言葉も耳に入らないのか?まぁ先行くか 「・・・・・ふんふん、なるほどね。キョンはどう思う?ってあれ、キョンは?」 「先行ったみたいだぞ」 「何で言わないのよ!この役立たず!」 「いてー!蹴るなよ・・・・・殴るのもなしだって」 「長門、いるかー」 「・・・・・・・・・・・・・・・何?」 なんか朝は三点リーダーが多いな・・・・・長門も朝は苦手なのかな? しかし、こんな朝早くから団室にいるなんて、流石長門だな 「ちょっと聞きたいことがあるんだが、いいか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・いい」 やっぱり機嫌悪くないか?昼休みでもいいんだが・・・・ 「・・・・・・・・・怒ってなどいない・・・・・・・・・早く話して」 やっぱり怒ってねぇ?微妙に目が恐いんだが・・・・・ 「そのことについては情報統合思念体も把握している。涼宮ハルヒの力によるもの」 まぁ、想像はしていたが・・・・・で、何でそうなったんだ 「情報統思念体の見解によると、涼宮ハルヒはあなたと恋愛関係にあることを世間に知られることで、あなたを他の女に取られることを防止したと思われる」 「なるほどね・・・・そんな可愛い一面もあるんだな」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ・・・・恐いから睨まないでください 「で、なんでそのことを俺に教えてくれなかったんだ?」 「現実、事実を捻じ曲げた情報の書き換えはなく、また時間が経てば現状と同状態になると予測されたため」 「なるほどな・・・・納得したよ。ありがとよ」 「・・・・・・いい」 「・・・・・・でね、そしたら今度は有希が・・・・・って聞いてる?」 「聞いてるって、長門がなんだって?」 「フフフ・・・・・・やっぱりキョンはキョンね」 「どういう意味だ、それ?」 「そのまんまの意味よ!」 ・・・・・・・・わけわからんぞ、それ 俺とハルヒのラブラブっぷりは自分で言うの変だが常軌を逸している そのことが顕著に現れるのは授業中と団活中、それにデート中だ 「・・・・・・・・・」 授業中はずっと後ろから視線を感じる。まぁ後ろからって時点で視線の元はハルヒで間違いないんだが・・・・・それにしてもこの席順、変わらないな 「・・・・・・・・・何見てんだ?」 「キョンの背中って案外大きいのね。頼りになりそうね」 「そうかい、そりゃぁどうも」 授業中だというのに、こんな惚気た会話をしてて、よく自分が恥ずかしくないよな しかし、この学校の教師はどうなってるんだ?これだけハルヒとお喋りしてるっていうのに注意の一つもしてこやしない ・・・・・・もしかして、またトンデモパワーで「ラブラブ遮蔽シールド」とか張ってるんじゃないだろうな・・・・・いや、ハルヒならやりかねん まぁこのくらいは許せる範囲なんだが、やっかいなのが団活中だ 授業中にいちゃいちゃ出来ないのが不満なのか放課後の団活ではその不満を爆発させる 「ねぇ~キョン~・・・・キョン~・・・・・・」 だー!耳元でそんな甘い声で囁くな!!理性よ頑張れ!! 指定席だったデスクトップの置いてある団長席は今はただのパソコン台に成り下がり、ハルヒは俺の隣に座って、俺を弄ったり古泉とのボードゲームを観戦したり俺を弄ったり雑誌を読んだり俺を弄ったりノートパソコンでネットの世界にダイブしたり俺を弄ったり俺を弄ったり・・・・ つまり何だ・・・・・俺の理性を崩壊させたいだけなのかもしれん。こいつの悪戯心にはまいるよ。こんなこと毎日されてたら理性なんてあったもんじゃないぞ まぁデートの様子なんて実況しなくてもわかるだろうし、実況なんてしたくもねぇ いわゆる唯のバカップルってことだ そんなハルヒもバカップルっぷりを唯一振舞わないのが土曜、つまり今日の不思議探索のときだ クジでの組み合わせ決めで、俺はてっきり毎回ハルヒと2人きりになるとばかり思っていたんだがそうではないらしい。きちんと確率論に則った結果が毎回提示される ここぞとばかりにハルヒパワーじゃないのか?こういうところで力を発揮して欲しいね 「大丈夫。わたしがさせない」 ・・・・・・・・・・長門?! ・・・・・・・・・偶然だよな? 偶然なのかハルヒパワーなのか情報操作なのか規定事項かはしらんが今日の午前のペアはハルヒとだった。でも何かが違った。しいていうなら風邪をひいたハルヒってところか?いつもの猪突猛進さがないというか「キョンとね!じゃぁ行くわよ!」と言って手でも引っ張っていくと思ったんだが・・・・・そういえば付き合い始めてからはペアになるの初めてだな なんだかしおらしいハルヒをつれて街中をぶらぶら・・・・傍から見ればただのデートなんだが、いつのまにか例の川沿いを歩いていた なんかハルヒも元気がないことだしベンチで一休みするか 「なぁ・・・・今日のお前、元気がないな」 「そ、そんなことないわよ!いつも通りよ」 「・・・・・・・・そうか、ならいいが」 「・・・・・・・・・ねぇ、キョン。あたし達って付き合い始めてから1ヵ月経ったわよね?」 「ん?あぁそうだな」 「キスもたくさんしたわよね?」 「・・・・・まぁ・・・・・・・・・・したな」 「あたしのこと愛してる?」 「そりゃぁ勿論愛してるぞ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そう」 何が言いたいんだ?やっぱり何処か変だ。少しどころではない。大分おかしい 「キョン・・・・・探索が終ったら家に来て」 「家って・・・・・・・ハルヒの家か?」 「うん」 「そうか・・・・・・・・わかった、行くよ」 「ありがとう・・・・・もう時間ね。皆の所に戻るわよ」 おかしい。おかしいことに間違いはないのだが・・・・・それにしても直接家に呼び出すなんて、よっぽど大事な話があるに違いない・・・・・・・別れ話なんて勘弁だぜ? 「さて、涼宮さんがいなくなりましたので・・・・・大事な話があります」 「お前の、その「大事な話」とやらはどうせ俺を巻き込む事態なんだろ?」 「何故そう思われるのですか?」 「この面子で話し合うことなんざ、どうせ俺が疲れる仕組みになってるに違いない」 「まぁとりあえず話だけでも・・・・」 午前のおかしなハルヒは朝比奈さんを引き連れて午後もおかしなまま2人で人ごみへと消えていった。つまり俺のペアは長門に古泉だ 俺たちはいつもの喫茶店の前で別れる振りをして再度入店した。なんでもこの店は機関のものらしく、聞かれたくない話を存分に出来るらしい。 「端的に申し上げますと、今朝のペア決めで凉宮さんとあなたがペアになられたとき閉鎖空間が発生しました」 なんだと?閉鎖空間ってあの閉鎖空間か?ハルヒがストレスを感じてたってことか? 「いえ、今回はそのような理由ではなく、また通常の閉鎖空間ではないようです。僕は機関からの報告を受けただけで実際に見ていないので詳しいことは分からないのですが、閉鎖空間内を覗ける長門さんに、ここは説明を任せます」 「了解した」 長門はそんなことも出来たのか・・・ 「通常の閉鎖空間と違う点は2つ。1つは空間範囲の狭さと拡大する気配がないこと。2つめは神人の活発な活動が認められない」 あの神人が活発に破壊活動をしていない?想像も出来んな・・・ 「神人は出現してから約3時間の間、ただうずくまって座っているだけ。破壊活動もしなければ身動きすらしない」 「そんな神人が出たのか・・・で機関はどうするんだ?」 「えぇ、そのことなのですが・・・・触らぬ神に祟りなしとも言います。しかし放っておけば何時までも閉鎖空間は消えませんし、何時拡大を始めるかもわかりません」 「そうか・・・・・・で俺はどうすればいいんだ?」 「そうですね・・・・なにか涼宮さんについて変わったこととかはありませんでしたか?」 「変わったところと言えば・・・・・どこか元気がなかったぞ」 「元気がない・・・・落ち込んでいるのでしょうか?」 「そのような感情の観測はなされていない・・・・言うなれば・・・不安になってる?」 不安?ハルヒが・・・本当か、それ 「宇宙人、嘘つかな~い」 長門・・・・キャラ変わってるぞ 「さて、これからどうしましょうか。僕としては探索が終ってからでも充分対策がとれると思うのですが・・・・どうです、長門さん」 「問題ない。探索終了後わたしのマンションで検討会を実施する」 そうかい。頑張ってくれよ 「何を言っているのですか。もちろんあなたにも参加してもらいますよ」 いや、俺はちょっと用事が・・・・ 「世界とその用事とどちらが大事なのですか?」 そりゃぁハルヒも大事だが世界が終ってしまえば元も子もないか・・・・ 「わかったよ」 「わかっていただけてよかったです。では探索終了後、1度別れる振りをして長門さんのマンションに集合ということで」 「はいよ」 「了解した」 「では探索に参りましょうか」 「今日の探索は終了!解散!」 ハルヒの一声で今日の探索とは名ばかりの活動も終了し俺も帰宅する振りを 「さ、行くわよ」 そうでした。呼び出し喰らっていましたね しかし古泉にも言われたとおり世界のほうが優先されるべきなんだろうな・・・・世界崩壊の原因が目の前にいるとは 「あぁ、そのことなんだが。スマン、実は用事があってな」 「・・・・・・なによ、あたしより優先すべきことなの?」 「まぁそういうことだ」 「その優先することってなんなのよ!」 しまったな、言い訳を考えてなかった。まさか本当のことを言うわけにもいかないし、かと言ってハルヒに俺の考えた嘘が通じるとも思えないし・・・・・ 「黙り込んじゃって、ますます怪しいわ」 しょうがない。本当のことを全部言うわけにはいかんが・・・・ 「実は長門の家に呼ばれてるんだ」 「・・・・・え、有希?」 「・・・・・・・なんであたしより有希なのよ」 え?俺の目の錯覚か・・・・ハルヒの大きな目から1滴、2滴と大粒の涙が滴り落ちてゆく 「あたしより有希なの?・・・・・・・・あたしのこと嫌いになっちゃったの?」 「違う!そんなんじゃない・・・・・ハルヒのことは好きだ!」 「そんなの嘘よ!もういい!!」 そう吐き捨てたハルヒは走っていってしまった。こんなの常識的に考えて追いかけるだろ?世界なんて二の次だ 「みっみっミラクル~み~くルンルン!」 「発信者:古泉一樹(グループ:SOS団)」 そう俺の携帯のディスプレイが表示している。いいタイミングだな 「・・はぁ・・・・はぁ・・・・・古泉か?」 「ええ。緊急事態です。閉鎖空間が急速に拡大し始めました」 まぁそうだろうな・・・・・あんなにハルヒが怒って泣いていたんだ 「はぁ・・はぁ・・・・・そうか・・・・・はぁ・・・・悪いが俺は行けそうにない・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・理由は・・・・・・・・・・後で」 「なんとなく状況は察しました。世界崩壊の危機を脱っすることが出来ましたらそのとき・・・では」 話のわかる仲間を持つと助かるぜ 「・・・・・・なんであたしの部屋に入ってきてるのよ」 「おまえが来いって言ったんだろ?」 ・・・・なんてのは嘘で夢中で追いかけてたらハルヒの部屋まで来ちまった 「だってあんたは有希のところに行くんでしょ!」 「いや違うそれは・・・・」 「それは何よ!だいたいあんたはいっつも有希やみくるちゃんばっか見てデレデレしちゃって、あたしのことなんてちっとも見てないじゃない」 「なに言ってるんだ!俺はしっかりお前のこと見てるぞ!」 「・・・・・・そんなの嘘よキョンはあたしのことを見守っててはくれないわ」 「いいや、嘘じゃねぇ!お前のことを守って見せる」 「そんな約束いつまで続くかなんてわからないじゃない!」 「約束する。いつまでもおまえのこと見守っててやる!」 「・・・・・・?!ちょっとキョン、それって」 「俺は世界とハルヒを天秤に掛けてもハルヒをとる!何があってもハルヒを守ってみせる!」 「・・・・・・・・・・本当」 「あぁ、本当だ」 「・・・・・・・・まぁいいわ。今回は信じてあげる」 はぁ、よかった・・・・ってそういえば古泉たちは大丈夫なのだろうか 本当にハルヒの方の天秤をとったわけなんだが・・・・ 「・・・・・・ねぇ、キョン。知ってる?」 何がだ? 「今ね、この家にいるのキョンとあたしだけなのよ?」 そ、それは拙くないか?男と女が二人っきり・・・・・ 「別に拙くなんかないわよ。あんたさっき自分で言ったこと忘れたの?」 さっき言ったこと・・・・なんのことだ? 「はぁ?あんた覚えてないの?あたしを一生・・・・・・まぁいいわ、キョンはやっぱりキョンね」 ・・・・・・・・なんのこっちゃ 「ここは再構築世界とかじゃないよな?」 「えぇ、おそらくは・・・・ですよね?長門さん」 「そう」 ハルヒを泣かしてしまうという事件もようやく一段落ついたその日の深夜、ようやく長門のマンションに来れた。本当はもっと早く来るつもりだったんだが、泣き疲れたハルヒは俺を抱きかかえたまま寝てしまった 別に腕の中から逃げてこられなくはなかったんだが・・・・・気持ちよさそうな顔だったから、つい見とれていこの時間だ 「・・・・・・・・可愛い寝顔だな」 「!?・・・・・Zzz・・・・」 あぁ、こいつ起きてやがる・・・・顔が真っ赤だ 「お前、起きてるだろ」 「・・・・・なんでわかったのよ」 「そりゃぁいつでも見守ってるからな」 「・・・・・・・・キョン」 「そういやぁ親はどうしたんだ?」 「・・・・・あんた雰囲気ってものを知らないの?」 「なんのことだ?」 「はぁ・・・・・・親は親戚の結婚式に行って夜まで帰らな・・・・ってもうこんな時間じゃない!何で起こさないのよ!!」 「可愛い寝顔だったからつい・・・・」 「バカこといってる場合じゃないわよ、本当に帰ってきちゃう。キョン、早く帰る支度して!」 別に「あたしの彼氏よ」とか紹介されてもいいんだが・・・・ 「バカいってないでさっさと帰る!!」 ってな具合に家を追い出されてしまった 「そうか・・・・じゃぁ、今回の種明かしをしてもらおうか」 「種明かし・・・・ですか。結論から言いますと、男には女の気持ちはわからない・・・・でしょうか」 全然結論になってないぞ、古泉。ちゃんと説明しろよ 「僕も男ですし、今回の騒動は長門さんにご説明をお願いいたします」 「了解した」 長門って、その台詞多いな・・・・・ 「凉宮ハルヒが不安になっていな要素はたった1つ。あなたとの関係」 「俺との関係?」 「凉宮ハルヒがあなたにしようとした行為によってあなたとの関係が壊れることを危惧し、その葛藤の中で例の閉鎖空間を発生させた模様」 行為?行為ってなんだ? 「・・・・鈍感」 「いやぁ、あなたがそこまで鈍感とは」 「・・・・・わるかったな」 ハルヒが俺としようとしたことぐらい俺にだってわかるさ。付き合って1ヶ月、キスも充分した、愛してる。でも気づくのが遅かったな。スマン、ハルヒ。やっぱり女の考えてることは男には到底わからないものなのさ・・・・・でもちゃんとわかるように努力はするよ 「・・・・な、なによ!じろじろ見て」 「いいや、別に。俺はただお前を見守ってるだけだ」 「・・・・・・・あんた、よくそんな恥ずかしい台詞が言えるわね」 お互い様だろ 「そんなに見られてたら答え合わせに集中できないじゃない!」 今日は土曜探索の翌日、日曜日だ。予定通り午前中はハルヒと勉強会中・・・・と言っても、もう終るんだがな 「・・・・うん、よし。今日はこれでおしまいね。お疲れ様」 「お疲れ、ハルヒ。いつもありがとな・・・・・午後はどこにデートに行きたい?」 「・・・・・あたしの家に来ない?」 ・・・・・・親に紹介でもするのか? 「んとね・・・今日も家に誰もいないのよ」 「それってまさか・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・バカ」 good end… 「いやぁ今回は出番が結構ありましたね」 「いっぱい喋った。ユッキーがんばった」 「あのー・・・・・わたしは?」 作者「空気乙wwwwwwwwwwwwwwwwwwww」 「貴様、【禁則事項】で【禁則事項】して【禁則事項】するぞ!」 作者「アッー!!」 bad end…
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/254.html
暖かいまどろみの中 聞き慣れない目覚ましの音が鳴り響く キョン「ん・・・う、うるせ・・・」 ジリリリリリリ キョン「・・・・ん?クソ・・・この」 毎朝の習慣。右手を軽く伸ばす。しかし、いつもあるはずの場所に目覚まし時計がない キョン 「な、なんだ?・・・」 軽く目を開ける。目覚まし時計は、枕元の見慣れない小棚の上にあった カチッ キョン「んー?・・・・・・ぁ?」 違和感。おかしい。あきらかに。ベッドがデカいし・・・部屋も見慣れない・・・枕も2つある キョン「ここどこだ・・・」 少なくとも俺の部屋ではないことはわかる。いや、俺はいま起きるまでは何をしてたんだっけか いや、いま起きたんだから寝たんだよな・・・どこで?たしかに俺の部屋で寝たよな・・・キャトルミューティレーション? ガチャ キョン「・・・!」 ハルヒ「あ、起きた?キョン」 キョン「・・・誰ですかあなたは・・・」 いや、みりゃわかる。ハルヒだ。どう見てもハルヒ。・・・しかし、ハルヒではない。 ハルヒは・・・こんなに胸もないし・・・エプロンなんて・・・ キョン「おわわわ・・・近づくな」 ハルヒ「?」 俺の知ってるハルヒの目だ。ちょっと吊り目がちな目で見つめてくる・・・て、おい、こいつはハルヒだぞ。 ちょっとドキドキしてしまう キョン「なにを俺は」 ハルヒ「なーにぶつぶつ言ってんのよ。仕事遅れるでしょーが」 キョン「ほあ?」 ハルヒ「ほあ?じゃないでしょ。さっさと朝ごはん食べて会社行きなさい!」 か・・・かいしゃ?・・・学校じゃねーのか・・・てか、・・・これは ハルヒ「・・・・・・」 キョン「な・・・んだよ」 ハルヒ「・・・・・んー」 んんーーーーーーーーーー??これは!これはあああ!見たことあるぞ!漫画で!ドラマで!映画で!そう!キスのおねだりだ!! キョン「お、おい・・・!おまえな・・・悪ふざけも大概に」 ハルヒ「あ!パン焦げちゃう!」 ドタドタドタ ハルヒ似の人妻は、ハルヒそっくりな騒音を立てながら階段を降りていった いや、わかった。あれは、ハルヒ似でも人妻でもない。いや・・・現実を見ようか・・・あれはたしかに『人妻』のハルヒだ 暑苦しい部室だ・・・もうこれが高校時代最後の夏か・・・ キョン「・・・ふー」 古泉「キョンさん。いままで僕たちは防戦一方でした」 キョン「なんだいきなり。俺は疲れてるんだ・・・そっとしておいて・・・許可なく隣に座るな」 古泉「ははは、キョンさんの隣は涼宮さん専用でしたね失敬」 キョン「もうなにもいわん」 古泉「そうですか、助かります。では、本題に入ります」 思えば三年間。こいつはずっとこうゆう話の展開の仕方だったな 古泉「話は簡単です。キョンさんに涼宮さんの『願望』の中に入ってもらうんです」 キョン「・・・大丈夫。驚かない。」 古泉「もう、慣れたものですね。ははは」 キョン「まず、言おう。俺をハルヒの願望の中。つまり宇宙人や未来人、超能力者。いや、それだけじゃないだろ。恐竜や怪獣。スーパーヒーローにスーパーロボット はたまた・・・・とにかく、そんな中に俺をぶちこんで」 古泉「ええ・・・・それなんですがね。どうやら、最近の涼宮さんの願望に大きな変化があるようなのです」 キョン「変化・・・それ3年前も言ってただろ・・・悪い風に変化してるって」 古泉「違うみたいなんですよ、それが。涼宮さんを変えた決定的なのが」 キョン「おまえがなんでそれを知っている」 古泉「やだなぁ。僕はまだなにも言ってませんよ」 俺とハルヒが去年の冬に・・・あの日からハルヒが俺にあまり突っかかってこなくなった 古泉「で、ですね。その変化を見に行ってもらいたいんです。あ、キョンさんは、いつもどおり夜に自室で寝てるだけでいいんです 私たちが飛ばしますから」 キョン「超能力も便利になったものだな」 古泉「ははは。ええ、我々も進化してますからね」 キョン「進化じゃなくて、進歩といえ。おまえに進化されるとなんか怖い」 古泉「ははは」 ハルヒ「はい、それじゃ鞄持ったわね」 キョン「ん、ああ」 ハルヒの作った朝食は、ごく一般的とはいえ、俺には十分満足できるものだった 鞄を持ち、玄関まで行く。ハルヒは・・・マンションより一軒家がいいのか・・・それに結構大きめだな。ハルヒらしといえばハルヒらしいか 俺は心の中で笑ってしまう ハルヒ「はい、お弁当」 キョン「おう、あんがとな」 靴を履き終え、玄関のドアに手をかける ハルヒ「・・・・・」 例といえば例のごとくだが・・・ キョン「・・・・・・」 ハルヒが軽く俺のスーツを掴む キョン「・・・・・・ん」 ハルヒ「・・・ん・・あ」 長いキスだ。こんな長いキスを毎朝すんのか ハルヒ「・・・・ん・・・ん」 いや、まあ・・・決して悪い気分では・・・ キョン「・・・・んあ・・・・ん」 俺はやっぱハルヒが好きなのか ハルヒ「はい!終わりね!いつまでキスしてんの!」 キョン「う・・・」 いきなり口を離され、なんだか不憫な気持ちになってしまう ハルヒ「本当にキョンはスケベな 結婚したら少しは落ち着くかと思ったんだけどね」 キョン「あ・・・あのなぁ」 俺は玄関のドアを開け、外に足を出す ここどこなんだろうなぁ・・・ 玄関の外も見慣れない景色だ キョン「じゃ、行って来る」 ハルヒ「さっさと行きなさい!」 いってらっしゃいませご主人様とか言え・・・いや、普通はないか キョン「・・・ふー、これがハルヒの『願望』なのか」 しばらく歩くと後ろからタタタタと足音が聞こえる キョン「あ・・・弁当」 キスして忘れたよ・・・ ハルヒが弁当片手に駆けてくる 右手の人差し指を下まぶたにつけて 舌を出して・・・ベーっとしながら ハルヒ「キョン!あんたってほんとーにあたしがいなきゃダメね!アハハハ」 それは本当に楽しそうなハルヒの笑顔。無垢な子供のような、それでいて女性の優しさが溢れている この笑顔を俺は・・・叶えたい。いや、叶えられる・・・俺は、そう確信を持ったんだ 暑い・・・寝苦しい・・・ ジリリリリリリリリリリリジリリリリリリリリリリリ キョン「・・・あ・・つい・・・う、うるせ」 カチッ 俺はいつもどおりの部屋で、いつもどおりの位置の目覚ましを止めた キョン「・・・今日から夏休みだ」 プルルルルルルルルルル ピッ キョン「んあ」 ハルヒ「キョン!おきてるー!?SOS団発進よ!すぐに学校に来るように!以上」 おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1019.html
涼宮ハルヒの終焉 プロローグ 涼宮ハルヒの終焉 第一章 涼宮ハルヒの終焉 第二章 涼宮ハルヒの終焉 第三章 涼宮ハルヒの終焉 第四章 涼宮ハルヒの終焉 第五章 涼宮ハルヒの終焉 第六章 涼宮ハルヒの終焉 第七章 涼宮ハルヒの終焉 第八章 涼宮ハルヒの終焉 最終章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2970.html
キョンの病欠からの続きです …部室の様子からもっと物が溢れ返ってる部屋を想像したんだが…。 初めて入ったハルヒの部屋はあまり女の子らしさがしないシンプルな内装だった。それでも微かに感じられるその独特の香りは、ここが疑いようもなく女の子の部屋なのだと俺に認識させてくれた。 「よう、調子はどうだ?」 「……だいぶ良くなったけど…最悪よ」 …どっちだよ。 ハルヒは少し不機嫌な表情でベッドに横になっていて、いつもの覇気が感じられなかった。いつぞやもそう思ったが、弱っているハルヒというのはなかなか新鮮だな。 「ほら、コンビニので申し訳ないが、見舞いの品のプリンだ。風邪にはプリンなんだろ?」 サイドテーブルに見舞いの品を置くと、ハルヒはそれと俺の顔を交互に見つめて訝しげにこんなことを言ってきた。 「……あんた、本当にキョン?中身は宇宙人じゃないでしょうね?あたしの知ってるキョンはこんなに気が利かないわよ?」 弱っていても失礼な奴だな、お前は。俺にだってこの程度の気遣いは出来る。 「…ま、昨日は世話になったからな」 実際、熱にうなされ苦しんでる時にハルヒの存在にどれだけ救われたことか。あと、その風邪を移したのはほぼ間違いなく俺だろうしな。 そう思うと俺は何かせずにはいられない気持ちになってしまい、その素直な感謝の気持ちが俺に自分らしくない台詞を口に出させていた。 「何かして欲しいことあるか?宇宙人を連れてこいとかいう難題以外なら、今日は素直に言うことを聞いてやろう」 俺がそう言うとハルヒは黙ってしまった。時計の秒針の音だけがカチカチと部屋に流れる。 そろそろ沈黙が痛くなってきて、俺が自分の台詞を後悔し始めた頃、ハルヒは絞り出すように少し震えた声でお願いを口にした。 「…………手」 「ん?」 「……昨日みたいに手を握りなさい」 「ああ…」 差し出された右手に俺も右手を重ねる。……素面でやると結構恥ずかしいもんだな。 ハルヒの熱が伝わったのだろうか?俺の顔も熱くなってきた。きっとハルヒの手が熱いからだ。うん、そういうことにしておいてくれ。 「……あと、頭撫でなさい」 ……そんなことを命令口調で言っても威厳はないぞ? 「……早くしなさいよ」 恐る恐る手を伸ばし髪に触ると、ハルヒは一度ビクッと強張ったが、その後はおとなしく髪を撫でられていた。 そうしてさわさわと撫で続けていると、ハルヒはくすぐったそうに目を細めていたが、少し無理をして起きていたのか、1分もしない内に眠りの世界へと落ちていった。 どのくらいそうしていただろうか?目の前のハルヒからはスゥスゥと規則正しい寝息が聞こえてくる。 黙っている時のハルヒは反則的なまでに可愛く、それがまたあどけない寝顔なのだから、じぃっと見ていると妙な気分になってくる。 いかんいかんと頭を振りながらも、俺はどうしてもハルヒの寝顔から目を離せずにいた。 今までこんなに穏やかに、じっくりと、しかも本人の目の前でハルヒについて考えたことはなかった。 だからだろうか?その事実に気が付いてしまい、そして驚くほどすんなりとそれを受け入れることが出来たのは。 俺はなんだかんだでハルヒのことを憎からず思って…いや、むしろ積極的な好意を持っている。 「……そうか、俺はハルヒのこと好きだったんだな」 それを言葉にして口に出してみると、急に落ち着かなくなり恥ずかしさが込み上げてきて、俺はハルヒが起きる前に帰ってしまうことにした。 椅子から立ち上がり鞄を手に取ろうとした時、俺はハルヒの額に浮かんでいる汗の存在に気が付いた。 …クソ、気になっちまった。 ハルヒの穏やかな寝顔に似合わないその汗がどうしても許せず、気が付くと俺は枕元のタオルを手に取っていた。 ハルヒの額の汗を丁寧に拭うと、シミひとつない白い肌が露になる。純粋に綺麗だな…と思っていると、ハルヒは不意に俺の名前を呟いた。 「……ん…キョン…」 「…………」 チュッ …………待て、俺は今何をした? 俺の唇に残るほのかな温もりは間違いなくハルヒのそれであり、ハルヒの額に残る微かな赤みは間違いなく俺が付けたそれだった。 要するにキスだ。キス?額にとはいえ俺がハルヒにキスをしたのか? ぶわっと今度は俺の額に汗が浮かんでいくのを感じる。ハルヒの寝息が聞こえなくなるほど心臓の音は大きくなっていった。 俺の頭に窓から逃げようという意味不明な選択肢が浮かんだ瞬間、ハルヒは静かに目を覚ました。 「……ん」 ゆっくりと、ハルヒの目が開いた。 ヤバイ、怒鳴られる。いや、むしろ殺される。 上がりっぱなしの心臓の回転数は今にも限界値を突破しそうだった。 宇宙人でも未来人でも超能力者でもいい、自業自得なことも分かってる、それでもお願いだ。時間を1分前に戻してくれ! 「……あ…今少し眠ってた?」 …気が付いてないのか? 「…え?あ、そうだな、10分くらいかな?」 …気付かれなかったことにほっとした反面で、少し残念に感じるこれはどういった感情なのだろうか? こちらの動揺をよそにハルヒは俺をじっと見つめ、なにげない一言で止めを刺した。 「今日はありがと、キョン」 「…ッ…」 その素直な感謝の言葉が胸に刺さり、心臓が止まりそうなほどの罪悪感が俺を責める。こんな気持ちになるのなら、いっそのこと気付かれて公開処刑されたほうがまだマシだ。 脳内裁判にて裁判長・長門が俺に有罪を言い渡したところで、目の前に予期せぬ逃げ道が現れた。 「…ふゎ…まだ眠いからもう少し眠るわ」 「あ、あぁ、眠いなら寝たほうがいいぞ、うん。なんせ風邪だからなっ」 自分でも不自然だと思える早口に俺の動揺は更に深刻なものになっていき、それがとんでもなく卑怯な行為だと理解しつつも、俺には真実を語らずに逃げ帰るしか、自らを落ち着かせる術はなかった。 「じゃ、じゃあ、俺は帰るな!また明日っ」 バタン! 転がるようにハルヒの家から出ていくと、外は既に暗くなり空には綺麗な月が浮かんでいる。 ふとハルヒの部屋を見上げると、まだ眠ると言ったはずのハルヒがこちらを見下ろしていた。 何か言っているような気がしたが聞き取れるはずもなく、俺は明日からどんな顔でハルヒに会えばいいんだろう?と思いつつ、逃げるように家路に着いたのだった。 「……どうせなら口にしなさいよ、馬鹿キョン」 End
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3144.html
2ハルヒ4 18:00 ピ ピ ピ ピ ハルヒ「じゃ明日9時に駅前集合だから。遅刻は死刑よ!じゃあね」 いつも通りそう言って部室を後にする。 18 30 ピ ピ ピ ピ 家に着く。阪中さんからメールだわ。 『散歩がてら遊びに来たのね。近くの公園にいるのね』 18 37ピ ピ ピ ピ 公園に行くと阪中さんとJ・Jが待ってた。 適当に話したり適当にJ・Jをかまって帰った。 19 04ピ ピ ピ ピ お母さんが帰ってた。ご飯を作っている。 できるまでに宿題する。 19 27 ピ ピ ピ ピ 遅いわ!お腹がすいて集中できない。 常勝巨人軍が6-0で負けてるのも気に食わないわ 19 43 ピ ピ ピ ピ 呼ばれたからご飯を食べに下に降りる 今日はエビフライね。遅かったことは許してあげましょ。 20 28 ピ ピ ピ ピ 親父があたしを呼んだ。巨人が点を入れたみたい。 でも、阪神には勝たなきゃ許さないわ。 20 43 ピ ピ ピ ピ 明日どこへ行こうか考える。 組み分けをアミダに変更しようかしら あたしがキョンと組むように書いて・・・ 21 09 ピ ピ ピ ピ ゴロゴロしてたら呼ばれた。お風呂か 22 01ピ ピ ピ ピ お風呂上がり。巨人がサヨナラ勝ちしたことを親父に聞かされる。 それでこそ、常勝巨人軍よ。 さ、宿題の残りやらなきゃ 22 47 ピ ピ ピ ピ 宿題が終わって寝る準備していたら、阪中さんからメールが来た。 『日曜日あいてたらね、一緒に遊んでほしいのね』 『いいわ』と返事 23 14 ピ ピ ピ ピ 布団に入りキョンにメールを出す。『明日遅れたらまたおごってね』 すぐ返事が来る『わかった。』 フフ素直ね 23 15 ピ ピ ピ ピ みくるちゃんにもメール出す。『明日もキョンにおごらせましょ』 みくるちゃんも返事が早いわ。『そうですね』か。意外と黒いのかしら 23 21ピ ピ ピ ピ 就寝 7 00 ピ ピ ピ ピ 起床。ご飯を食べて身支度をする。 7 43 ピ ピ ピ ピ 駅前へ出発。8時ちょっとには着きそうね。 8 06 ピ ピ ピ ピ 駅前が見えるとこにつく え?なんでキョンがもういるの?見間違い? 8 10 ピ ピ ピ ピ みくるちゃんと古泉くんが挨拶してくる。それどころじゃないのに・・ キョンは微妙に笑ってるし・・・なんなのよ、もう 「た、たまには団長がおごってやるわ」強がっておこう。 これからは8時ちょっと前にこようかしら それにしてもキョンが早く来るなんて…